ヤフーの働き方改革が目指すところ
働き方改革はオフィス移転から本格的に始まる
ヤフーは、2016年10月、東京ガーデンテラス紀尾井町へ本社を完全移転。その際に「オフィスがイノベーションを生み出す場所」となるよう、働き方を始め様々な改革に着手した。その移転プロジェクトにおいてに中心的な役割を担ったのが、現在コーポレートPD本部 働き方改革推進室長の古藤遼氏だった。バックオフィス部門だけでなく、デザイナーやエンジニアなど、各部門の実務層から担当者を集め、兼務で取り組んだという。古藤氏に、ヤフーの働き方改革の現状について伺った。
古藤遼(ことう りょう)
ヤフー株式会社コーポレートグループ コーポレートPD本部 働き方改革推進室長。1982年生まれ。福岡県北九州市出身。ソフトバンク、コンストラクションマネジメント会社を経て、2014年にヤフー株式会社へ入社。2017年より働き方改革推進室長に就任。同社の働き方改革の旗手となり奮闘中。
イノベーションを生み出すオフィスをつくる
(高山) 企業の働き方改革への取り組みを紹介する「ワークスタイルレポート」の第1回目です。早速ですが、古藤さんはどのようなキャリアを経て今に至っているのか、お聞かせいただけますか?
(古藤) 私は2度転職をしています。最初がソフトバンクで、次はコンサルティング企業でした。こちらでは社内環境のコンサルティングを行うことが多かったのですが、まだ道半ばの状況であっても契約が終わると改革も中断、というもどかしい思いをすることが何度かありました。
そこで「徹底的に社内改革に携わりたい」と思っていたところ、ヤフーが本社を移転するということを知り、渡りに船とばかりに転職しました。2014年の11月に入社し、ファシリティの移転の社内PM的なことを業務とし、入社以降ずっと移転プロジェクトに関わっていました。2017年から働き方改革推進室の室長となっています。
(高山) ヤフーが東京ミッドタウンにあった当時、社員の方が、日本ヒューレット・パッカードにもオフィスの視察に見えていらっしゃいました。そのときは「社員が増えて増床や他のビルを借りるなど、オフィスがバラバラになってしまった。やはり一緒の場所で働きたい」と話されていましたよ。
今回、移転と働き方改革がつながった大きな理由は何ですか?
(古藤) ヤフーはパソコンの世界では圧倒的でしたが、どんどんスマートフォンの利用者が増え、「スマホにシフトしなくては」「アプリに移行しなければ」という意識が強くなっていました。
そしてスマホ化への舵切りのため2012年に経営陣が入れ替わり、若返ると同時に新しいサービスを生み出すための環境づくりや働き方を考えることになり、移転プロジェクトが動き始めました。業績と連動してランチの値段が変わる、と話題になった社員食堂“BASE6”は本社から離れていましたし、執務エリアのデスクの配置も日本の伝統的な”島型“で、職場も旧態依然としていたんです。
そんな背景もあり、“この状況から抜け出さなければ”、”現状を打破しよう”という空気がありました。そこで移転プロジェクトにはバックオフィス部門を始め、デザイナーやエンジニアといった、各部門から担当者が兼務で取り組んだのです。
(高山) どのようなコンセプトだったのでしょうか?
(古藤) 「メディチ・エフェクト」という書籍の中で、ルネッサンス期のフィレンツェでは、専門領域の垣根を越えた様々な芸術が集まることで、互いに影響し合い、イノベーションが起きたとされており、それをヒントにオフィス環境も考えました。
ヤフーもイノベーションを起こす仕組み作りが必要だと考え、そこで最終的に「情報の交差点」をたくさんオフィスの中につくり、人が交流できるようにすることで、斬新なアイデアを生むことができるオフィスにするという方向性が決まったのです。
17階にオープンコラボレーションスペースをつくったのも、社員は6,000人ですけど、外に門戸を開くと何十億人という人たちにきてもらえる可能性が出てくるためです。そのような、人が行き交ったり情報が混ざり合えるようなオフィスの環境にしよう、という目的から今のかたちがあるのです。
ここは社員はもちろんのこと、社外の方も自由に利用できるスペースで「LODGE」と名付けており、17階にあります。
このように外部の方も自由に入れるスペースを設けることで、社員が異なる価値観に接して刺激を受けたり、Yahoo! JAPANが持つ技術や情報、リレーションと社外の方々を組み合わせることでイノベーションを生み出すことを目的としているのです。
(高山) フリーアドレス制はどうですか?
(古藤) 執務エリアはフリーアドレス制です。オフィス内のどの席に座っても構いません。執務エリアだけでなく、社員食堂(BASE)で仕事をしていてもよいのです。様々な場所に共有のモニターがあり、社内を移動しやすいようにバッグも貸与しています。
デスクは意図的にジグザグに配置されていますが、これはあえて歩きにくくすることで、人と接する機会を増やすことが狙いです。人と人が接し情報が交差することで、新しいアイデアを生み出してほしいと考えているためです。
また “社内で誰がどこにいるか”がマップに表示される位置情報システムがありますので、「あの人と話したい」という時は、検索すればすぐ会いに行くということもできます。
(高山) 社員食堂も話題となっていますよね。
(古藤) はい。社員食堂にも注力しています。11階にある社員専用の社内レストラン「BASE11」の座席数は820席で、1日約2,600名の社員が利用しています。
カロリーを抑えたメニューやサラダバーなどによる健康増進はもちろん、1キログラムもあるオムライスなどインパクトのあるメニューを提供したり、相席になりやすいような席配置にするなど、コミュニケーションを通じて、新たなアイデアを生み出したり、気分をリフレッシュしたりすることができるような取り組みが行なわれています。
もちろんWi-Fi環境や机に電源を配置するなど、社員食堂で仕事ができるようにもなっています。