新型コロナウイルスの影響で、新しい働き方や生活様式の変化が起きています。それに伴う出社制限やテレワークが常態化することは、企業で働く人にとって「社員食堂」の利用度が減ることにつながる···など、社員食堂業界も大きな変化の真っ只中にいます。しかしその一方で社員食堂が担ってきたコミュニケーションの場としての役割などが、仕事をこなす上で大きな意味を持っていたことが判明するなど、あらためてその価値が見直されつつあります。
そこで社食ドットコムでは、社員食堂を実際に有している企業の社員食堂担当者の方に、社員食堂の現状やそのメリット、感じている可能性などについてお話をうかがい、より多くの企業・人々に社員食堂の「良さ」を発信していただくべくインタビューを敢行しています。
今回ご協力いただいたのは三菱地所株式会社。同社の社員食堂「SPARKLE(スパークル)」ではランチタイムのみならず1 日中活用可能な新しいワークプレイスとしてのカフェテリアを目的として運営されています。このSPARKLEの担当者である中井さんにお話をうかがいました。
(聞き手/社食ドットコム編集部:文中敬称略)
【プロフィール】
中井 大貴(NAKAI,Hirotaka)/三菱地所株式会社 総務部
入社後、グループ会社や本社の営業部にて主にオフィスビルの営業・管理を経験し、現在は総務部で本社他ファシリティマネジメント、働き方改革、コロナ対応含む危機管理・防災対策等に従事している。趣味はサウナ。
【会社概要】
三菱地所株式会社
1937年設立の総合不動産ディベロッパー。国内外のオフィスビル・商業施設等の不動産開発を通じたまちづくりのリーディングカンパニー。
URL:https://www.mec.co.jp/
Q 御社の社員食堂の現状について教えてください
中井 弊社では勤務場所・時間共に全社一律のルールを設けない社員の自律性を重視する働き方を取り入れてますが、コロナ禍では時期によって出社数が半分以下になっており、コロナ前のピーク時に比べると喫食数もおよそ半分になっています(2021年10月末時点)。出社してる社員の利用率が極端に減ってるということではなく、出社人員の増減に比例しているという状況です。緊急事態宣言下の出社制限が一番厳しかった時は、全社員の3割未満になり、当時の喫食数は100食程度までに減少しました。
コロナ対策として、コロナ前まで人気だったデリ・サラダバーといったセルフで取るものは休止、また、お酒を提供するバータイムも一旦休止しています。あとはランチタイムのシフト運用です。ランチタイムは11時30分から14時の間で好きな時間に利用できますが、今は密回避目的で部署毎に利用時間を指定する運用を行なっています。他にはランチレーンのフットプリントや、机上の飛沫防止パネルの設置、「黙食」「ディスタンス確保」の周知啓発も行なっています。
またカフェでは、飛沫防止用パネルを単に設置するだけではなく、ドリンクメニュー等をプリントしたパネルを用意して指差しオーダーできるようにしており、単にコロナ対策を行なうだけでなく、ユニバーサルデザインや遊び心を取り入れてます。
運営会社の自律性を尊重
「食」を通じた発信の場所
Q 社員食堂運営において意識しているポイントを教えてください
中井 日々のメニューやオペレーションまで細かく関与しすぎず、社員食堂運営会社(以下、運営会社)の自律性を尊重し、ある程度の裁量を与えてお任せすることは意識してます。また、「食」を通じた発信の場所であることを意識してます。
以前、SDGsの取り組みの一つとして「大豆ミート」イベントを行ないました。大豆ミートと普通の肉を食べ比べることができる体験要素も取り入れたメニューや、SDGsに関するクイズやアンケート用のQRコードをプリントしたクッキーを提供してますが、これも運営会社が本イベント発案部署の社員と一緒に考えたアイデアです。社員は単純にメニューの味への関心は高いんですけど、こういったエンタメ感のある取り組みによって、イベント全体の盛り上がりやテーマへの関心に繋がります。
SPARKLEを単なる社員食堂に留まらない自由な発想で運営したいという共通認識のもと、お互いに経験・ノウハウが積みあがっていく中で意識合わせができていることもあり、日々の運営からイベントの企画・メニュー開発まで運営会社に安心してお任せできる体制になっております。
インナーコミュニケーションの観点で重要な位置づけ
Q 社員食堂の担当者としての「やりがい」を教えてください。
中井 一つは、多くの社員が、忙しい業務の中で限られた短い時間で社員食堂にきてますが、日々のメニューやイベント等に対して、「美味しい」とか「楽しい」というポジティブなフィードバックがわかりやすく得られることに担当として喜びを感じます。
もう一つは、「食」を通じた発信の場所を意識した社員食堂における各種取り組みは、当社内のインナーコミュニケーションの観点でも重要な位置づけになっていることです。
担当だけで企画・発信しても限界がある為、運営会社や社員からの自発的な提案・希望を実現できる場所にしたいと考えています。基本は前例がなくとも断ることはせず、コストなのか装飾なのか等課題を整理して、どうしたら実現できるかということを念頭に対応しています。結果的にコストが嵩んだことや理想通りにならなかったこともありますが、それも良い経験と捉えて、形にしてくれている運営会社がやりやすい環境にするよう意識しています。事例が増えてきた結果、今ではSPARKLEを社内メディアとして捉える社員も増えてきており、「部署の取り組みを紹介したい」「新規プロジェクトを発信したい」等の思いをイベントとして次々と実現しています。特にこの1,2年は提案される企画を積極的に受け入れることで経験とノウハウが蓄積され、社員食堂としての進化=社員の満足に繋がっていると思います。
偶発的なコミュニケーション空間と情報共有の場
Q 企業や社員にとって、社員食堂があることのメリットは何だと思われますか?
中井 社内施設としてサクッとリーズナブルに食事ができる福利厚生的な要素はもちろんですが、コロナ禍により社員同士のコミュニケーションの総量が減っている中では、コミュニケーション空間として有効だと一層感じています。
出社制限されているが故に、出社した際は限られたメンバーと限られた場所でのコミュニケーションが多くなりがちですが、社員食堂は他部署の同僚との偶発的な接触からちょっとした会話が生まれる場所になり、リラックスや気づきを得られる場所でもあります。
また、先ほど話した通り、多くの社員が立ち寄る場所だからこそ社内の発信スペースとして効果的であり、自然に情報をインプットできるメリットは大きいと考えます。忙しいとつい見逃しがちな、グループ会社との共同プロジェクトの紹介、健康経営、SDGs他、会社として取り組んでいることや関心を持つべきことを社員と共有できる場所があることは社員食堂の大切な意義の一つです。
━今後も期待しています。ありがとうございました。
(聞き手/社食ドットコム編集部:文中敬称略)