2024年現在、社員食堂業界は人手不足という問題に直面し、過去に例のない状況を迎えています。この記事では、業界を牽引する社員食運営会社のトップへの深掘りインタビューを通じて、新しい時代への展望を提供します。持続可能な食材調達から、従業員の健康と福祉を重視したメニュー開発、さらにはAIやデータ分析を活用したパーソナライズされた食体験の提供まで、業界がどのように進化し、従業員の日常生活に革新をもたらしているのか時代が求めているものにどのように対峙していくのか? についてやポストコロナ時代の職場環境における社員食堂の役割と、働く人々の生活品質向上への貢献などに焦点を当て、食堂運営会社が直面する課題とその解決策、未来へのビジョンについても詳細に迫ります。
社員食堂業界の最前線で活動するリーダーの洞察と、革新的な取り組みから、2024年の食堂運営業界の動向を掴んでください。
【プロフィール】
久田 和紀(ひさだ・かずのり)
フジ産業株式会社 代表取締役社長。
1985年3月青山学院大学卒業。同年4月豊田通商株式会社入社。審査部、都市開発部勤務、生活産業企画部長、食料生活部門豪亜部門長を経て2018年6月よりフジ産業株式会社代表取締役社長。2019年3月新企業ビジョン「The Partner for You」を制定、食を通じて従業員、顧客、社会と共に発展する企業を目指している。座右の銘は「諦めたらそこで試合終了ですよ」
【会社概要】
フジ産業株式会社
1968年(昭和43年)1月設立。資本金4,700万円。売上120億円。事業所数約550ヶ所。従業員数3,600名(2023年12月現在)。中堅の給食会社として社員食堂、学校給食、福祉向け給食を受託。2014年豊田通商による資本参加、2020年完全子会社化。「食を通じて人、社会から信頼され豊かな社会づくりに貢献する価値創造企業を目指す」を企業理念に日々挑戦を続けている。現在は既存の給食サービスのレベル向上に加え、人手不足対応の自社製造完全調理済み食材「クックパック」の拡販にも注力している。
本社所在地:東京都港区虎ノ門3-22-1 虎ノ門桜ビル5F
Webサイトアドレス:https://fujisg.co.jp/
【1】食堂運営業界はどうなる?
給食会社を襲う問題 ——人件費——
久田社長 大手調査会社によると今、給食会社の三分の一は赤字だと言われています。三分の一が赤字で三分の一が減収減益で残りが前年並みぐらい。顧客の中には社員食堂そのものを閉鎖しますみたいなところも出てきています。もう社員食堂にコストをかけられないというわけです。
今年もこの厳しい状況が続くのは間違いないどころか、むしろさらに厳しくなっていくと思います。というのは、人件費の上昇圧力がものすごく強いんです。
皆さんもご存知のように、昨今は国が「働き手の賃金を上げろ」と声高に叫んでいます。厚生労働省の発報によると、平成30年から令和4年の最低賃金は全国平均で874円から961円(約10%増)、東京都だと985円から1072円(約9%増)と右肩上りで今も鈍化の様子が見えません。
このように毎年最低賃金が上昇を続けており、給食会社は人材を確保するための固定費の上昇に悩まされ続けています。
給食業界は比較的賃金が安い業界ですが、今は「その金額では働かない」という人がいっぱい出てきています。給食業界全体は働き手が非常に多い。大手だと数万人規模の従業員がいますし、弊社でも四千人くらい。仮に全員の月給を一万円上げると月四千万円、年間だと五億円近くが必要になります。
ただそうでもしないと継続して働いてくれる人がいなくなってくるんだろうなと思っています。
幸い食材費の価格はグングン上がるといった高騰状態からは少し落ち着いてきていますので、そこは今まで値上げの交渉などでやっていけると思いますが、人件費の上昇圧力というのをいかに上手に転嫁したり吸収していくのかということが今一番問題で、業界全体としては、体力があるところは対応できるかもしれませんが、そうでないところは事業を縮小するとか撤退していくということが増えてくる可能性が高いでしょう。
食堂運営会社を襲う問題 ——委託費——
久田社長 昨年(2023年)、広島に本社を置くある給食会社が事業を運営できなくなって問題となりました。この会社は入札の際、とても無理だろうと思われるような低い金額でクライアントを獲得していたようで、その利益度外視とも言える金額の低さに発注側が「この金額で大丈夫ですか?」と言ったところもあったといいます。結局その会社はバンザイし世間でも大きなニュースとなりました。
この問題は、他にも要因はあるかもしれませんが、とにかく目の前の仕事が欲しいと言う給食会社が、人件費や食材費の高騰の波に飲み込まれたものだと思われますが、一方で仕事を依頼する側の意識にも注目が集まりました。
そんな状況であるにもかかわらず、給食委託費は現在もあまり上がっていません。国や自治体は賃金上昇を推奨しながら、自分が払うコストは上げたくない、それでは食堂運営会社が維持しづらくなってくるのは当然だと思います。
一例を挙げると、自治体などでは相変わらず入札で叩いてそれに格安で応じる給食会社に依頼するという構図になっています。自治体の場合、昔から給食のおじさんとかおばさんを市が雇ったりしていて「コストが上がってきているから、民間に出せば安くなるだろう」ぐらいのイメージで民間に委託しているところが多いようです。どこで作っても料理を提供するのにはそれなりの値段がかかるわけなんですけどね。なので「値段が安いのが当たり前」という意識が抜け出せていないところが非常に多いように思います。
また、最近「給食を無償化する」という話が自治体から出ていますが、無償化にすると当然利用者から食事代をもらわないわけです。そのシワ寄せがなぜか食堂運営会社に来るケースがあるのです。「予算が減ったから給食会社への委託費も減らす」と。もちろん給食を作るために必要な金額は変わるわけではありませんので配慮してほしいと思います。
自治体の中には、毎年「この予算で大丈夫ですか?」と聞いてくれるところもありますが、一部の自治体はいまだに「とにかく安く」といったことを言ってくるケースが散見されます。本来一番適正価格で発注するべきである自治体が、物価が高くなっている今でも「昔の金額で」と言ったり、「とにかく価格を安く」というのは理解しづらいですね。
そこで昨年(2023年)の11月に公益社団法人集団給食協会の会長が、岸田首相との対話会で学校給食の状況や厳しさを伝えました。岸田首相は「それは大変ですね」と理解を示すとともに、各自治体あてに、単純に価格の入札だけではなくて、実績とか衛生管理面とかそういうのを全部考えて総合評価で評価しなさいという意味合いで「時代を鑑みて柔軟に給食会社との値段交渉に応じること」という書面が送られました。
昔は食堂運営会社が多くて、企業側からすればいくらでも選択肢があって、少し気に入らないことがあったら「もう他の食堂運営会社に頼むから」と言ってきていましたが、業界をしっかり守ってくためには、食堂運営会社とクライアント企業のお互いがWIN-WINの関係であって、共存共栄ができる関係であるべきです。
2024年の食堂運営業界は人手をかけない元年となる
久田社長 2024年は厳しい状況が続くだろうけれども、その先に伸びる会社とそうでない会社の分岐点になってくるでしょう。業界全体の考え方として、体質強化して顧客に向き合う姿勢を変えていかないと、クライアントも変わりませんので、そうするといかに人手をかけないで、IT化とかロボット化といった、省人力化できるとこは機械が行い、一部をセルフにするなど、人手をかけない食堂運営に注力をしていくという流れが本格化してくると考えられます。みんなが協力してやっていかないといけない年になると思います。
【2】御社はどうする?
食堂運営会社が付き合う会社を選ぶ時代に
久田社長 「社員食堂」はやはり大手の企業が持っている場合が多いこともあり、比較的値上げの話に対して理解を得られやすい面があります。それでも今まで値上げとかに応じていただけていない取り引き先もありますが、その場合、そこの会社のホームページを見て、製品の値上げをしていたらそのページをプリントアウトして交渉の時に置くように言っています(笑)。
人件費や原材料費などの高騰はお互い様なので、弊社では「お互いに一緒にやっていく」というクライアントでなければ受託できなくても良いというスタンスに切り替えました。クライアントといろいろ交渉していく中で、単純に値段だけではなくて、人手が集まらない中、人件費が高騰する中で「どのようにしていけばいいのか」ということを一緒に考えてくれるクライアントとの仕事に注力するという方針です。
社員に対しても「更新の際に入札があったら、その場合は適正な金額で応札し、他社がそれより安い金額を入れるんだったらそれは手を引きなさい」と言っています。そして「それまで働いてくれた従業員は自社の他のクライアントの事業所へきちんと全員異動してもらいなさい」と伝えます。
また「うちは会社の方針で管理費は上げられないけど、従業員の食費の価格を20円だけ上げてあげる」といったクライアントもありましたが、そもそも20円程度じゃうちの食材のアップもまかなえないし、管理費だって人件費が上がっていて、それ全部くれって言ってるわけではなく、弊社も努力して減らしますので、という話です。それを会社の方針だけで「NO」と言われるのであれば、それは断ってきなさいという話をしています。もちろん何でもかんでも、というわけでなく適正価格を説明し、理解を得るよう努力するのが前提です。
弊社に限らず食堂運営会社ではこのようなスタンスのところが増えてきているので、クライアントをある程度選別するような時代になってきています。その辺りのバランスが少しずつ変わりつつあるのです。
弊社は短期的に「社員食堂」を一気に増やしていけるとは思ってはいなくて、「クライアント企業と一緒に作り上げていく食堂」を地道に増やしていきたいと考えています。
事業構造を変える
久田社長 ただ、クライアント企業の中には、どうしても食堂を縮小しなければならないが、代替案はない?」と言われるクライアントもいらっしゃいます。
そんなクライアントには我々の工場で作っているクックパックという完全調理済み品の利用等を推奨しています。それがあれば調理師さんなどが必要なく、提供前に少し刻んだりすれば提供できるようになるので、できるだけ人手、コストをかけないで提供できる給食にしていきたい、などクライアントの意向に沿っていろいろな提案をするように心がけています。
このように、人が減る一方でそういう伸びているサービスに対応することで、事業構造のバランスを切り替えていく必要があります。要は新規に受託するからといって、無理やり従業員を何十人も集めてという従来の事業スタイルを推し進めるのは長続きしないと思っています。単に売上を伸ばしていくというよりは、収益構造を変えて利益率を上げていく。それと人員の定着率をきっちりと上げていくことで、働きやすい会社を目指して「従業員が辞めない会社」であること、そしてお客さんが頼んでくれた時に「一緒に考える楽しい会社」を目指していきたいのです。
このように売上至上主義とは一線を画した方向でやっていきたいと考えています。
ひと昔前の弊社の現場の社員は、頑張ろうが頑張るまいが、「給与の何ヶ月分賞与」となっていたんですが、評価制度を取り入れて、「頑張ってくれた人には手厚く」という方向に舵を切っていますし、弊社は豊田通商グループの一員なので、グループの福利厚生の制度が使えたりすることができるなど、我々なりにできるところをきちんとやっていき、従業員の定着率を上げていくということを目指しています。
人口は減っている、人材不足も当然起きるわけです。今のまま行くと給食業界だって十何万人とか二十万人とかいう人が不足すると言われていますので、今までのように次々と働き手を集められることはできません。今後は外国人の登用も含めて、いかにその手間をかけず平準化した食事をきちんと出していくかを、クライアントと一緒になって取り組んでいくということが、弊社の描くこの先のシナリオです。
不条理な商売に与しない
「みんな大変です」って言いますけど、「大変」というのはやっぱり大きく変わるから大きな変化があるから大変と言うんです。そしてそこを乗り切っていくためにはやはり自分たちが変わらなければいけないけど、お客さんサイドにも一緒になって変わっていただかないとできないということを言い続けていく。それを理解して頂けるクライアントと付き合っていくということです。
お客さんと一緒にできる方法を考えて、こうしてくれたら続けられるという交渉をすること。それでも飲まないなら仕方がないけれど、まずやれる方法を考えてお客さんにぶつけて協議することです。それでもクライアント側の理論だけで一方的にダメっておっしゃるんだったら、それはもう撤退やむなしというわけです。来期はもうそういう方針です。
数を絞ってそういったところとクオリティを上げていくという話をさせてもらうほうがお客さんにとってもいいし、我々の従業員にとっても精神衛生上もいいんですよね。基本的にはそういう不条理な商売は大嫌いなんで、「なんだったら俺が行くぞ」と社員にも言っています。売上至上主義のような、嫌でも数字だけでもいいから上げてこいみたいなこと言われると、現場の人が楽しくないですよね。会社としてそれで年間で100万くらいの利益を出しているだけだったら、楽しく働いてもらってもっとモチベーション上がったほうが儲からなくても楽しいじゃないですか。
食堂運営会社で働くという人は、食事を作って、お客さんに笑顔を届けたいとか、そういうことでやってる人も多いわけですよ。それが精神的苦痛を受けながらやっていても仕方がないんですよ。その上で給料等処遇の改善をして、上げていかなければと思っているんです。
従業員のやりがいについては、先日、本社の2階にテストキッチンをリニューアルしたのですが、ここのオープニングに合わせて、従業員向けに本来なら捨てられるような食材を使って料理のレシピ考えて提案してください、という料理コンテストを行いました。スイカの皮を使ったタイ風のレッドカレーや、セロリの葉っぱのかき揚げベジ天丼などいろいろなアイデアを出してくれました。それで表彰式もやったのですがやはりやったことに対しての評価をしっかり行って、やりがいにも繋げていく。会社としてはこういったことをどんどんやっていきたいですね。
-貴重なお話をありがとうございました。
(聞き手/社食ドットコム編集部)
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