社食ドットコムが(一社)日本能率協会と行なったアンケート調査によると、「社員食堂を有している企業」では約90%超の社員が「社員食堂があった方が良い」と回答し、社員食堂の価値を認めている一方、「社員食堂を有していない企業」の社員で「社員食堂があったほうが良い」と回答しているのは約60%に過ぎませんでした。このことから、「社員食堂を有していない企業には、社員食堂の良さが十分知られていないのではないか」と推測されます。
新型コロナウイルスの収束がなかなか見えてこない昨今、社員食堂各社は社食業界の市場拡大のためにも、社員食堂の良さを「社員食堂を有していない企業」にも広くアピールする必要があると考られます。そこで社食ドットコムでは、企業の枠を超えて社員食堂の良さを伝えていただけるよう、さまざまな社員食堂運営会社の方々に社員食堂のメリットや今後の方向性について、お話しをうかがっています。
今回は東京・港区に本社を構えるフジ産業株式会社の中村様と山崎様にお話をお伺いしました。
(取材日時・2021年11月/撮影場所・豊田通商株式会社東京本社社員食堂)
【プロフィール】
中村 浩 (NAKAMURA,Hiroshi)
フジ産業株式会社 常務取締役 コントラクトフードサービス事業本部 本部長。2000年フジ産業株式会社入社。2004年取締役営業企画部長、2017年取締役給食統括本部長。2020年6月より現職。
山崎 葉子 (YAMASAKI,Yoko)
フジ産業株式会社 コントラクトフードサービス事業本部 東京支店 「豊通カフェ FLAT」チーフ・管理栄養士。大学卒業後、管理栄養士の免許取得。企業の社員食堂で管理栄養士として、献立作成・発注業務・調理・栄養管理・イベント企画を担当。2015年フジ産業入社以降は豊田通商株式会社社員食堂「豊通カフェFLAT」で管理栄養士として勤務。2021年4月より現職。
【会社概要】フジ産業株式会社
1968年1月設立。本社所在地 東京都港区虎ノ門3-22-1虎ノ門桜ビル。事業内容はオフィス・工場など社員食堂、学校・保育園、病院・福祉施設の給食運営、寮・保養所の食堂運営など、全国に約530か所の事業所でコントラクトフードサービスの受託運営を展開。また、2019年に完全調理済み食材(クックパック)の製造を三島R&Dセンターで開始。全国に5か所の支店、連結売上高120億、従業員数約3700人(2021年3月時点)
※2014年3月豊田通商株式会社グループ入り。Webサイトアドレス https://fujisg.co.jp/

Q 最近の御社の社員食堂を取り巻く環境について教えてください
中村 新型コロナウイルス感染症拡大に伴った、在宅勤務、出社制限により営業の休止や喫食者激減に陥り、都市部では閉鎖する社員食堂もありました。この2年弱に及ぶコロナ禍での社員食堂運営は、感染者増加による緊急事態宣言にも振り回され、喫食者自身の食事に対する意識変化が食堂離れとして現れたと思っております。
その中でも2021年10月に緊急事態宣言が解除となり、クライアント企業も新型コロナウイルス感染予防のルールの整備や食堂でのハード面の予防対策を徹底すること、そして職域によるワクチン接種を積極的に進めた結果、在宅勤務、出社制限が緩和され、食堂に足を運ぶ社員の方が徐々に増えてきています。また、不特定多数の人が集まる外部の飲食店で食事をすることに比べ、社員食堂は感染予防のため徹底した環境整備と食堂スタッフへの教育・指導で、安心で安全な場所であることをクライアント企業様に改めて認識いただけたと思っています。
クライアント企業の中には、外食を禁止し、社員食堂での喫食を推奨する会社もあります。つまり社員食堂はコロナ禍においても、喫食者に安心で安全な食事を提供し続けるという社会的な使命を果たしている証です。
私ども運営会社にとっても新型コロナウイルスは、社員食堂の営業面のみならず、就業面、生活面においても大きな影響・変化を余儀なくされました。しかし、前述のようにワクチン接種率の上昇が新規感染者数の減少に繋がり、そのため従業員の出社比率が上がり、徐々に喫食者は戻ってきております。それに加えて、在宅で食べていたコンビニ弁当やインスタント食品に飽き、また健康面の不安を感じるお客様が社員食堂の存在価値を改めて認識していただけたと感じております。健康意識の高まりから、コンビニ弁当やインスタント食品ではなく、社員食堂で栄養バランスの整った食事をとることが必要だと気づいていただけたのです。
Q 社食ドットコムでは「社員食堂を有していない企業の方は、社員食堂のメリットを十分把握できていない」と捉えています。そこであらためて「社員食堂のメリット」について教えていただけますか?
中村 社員食堂は会社の福利厚生の充実が企業価値を高め、優秀な人材を採用・確保できるといった効果がありますが、従業員が求める社員食堂とは、安心・安全が保証された、雰囲気が良く、メニュー構成が充実して、サービス内容が高いことです。この点が社員食堂のメリットを判断する基準となると思います。コロナ禍で感染防止対策をした社員食堂を持つクライアント企業は、従業員の安全・健康を守るといった企業責任を果たすとともに、福利厚生である社員食堂は、安くて豊富なメニュー、健康を配慮した食事提供、社員のコミュニケーションとリフレッシュの場であることが重要なのです。
また、従業員同士が「今日のランチは何を食べよう、どこに行こう」などと考えずに、社員食堂を気楽に利用できること、そのありがたみを感じるような魅力ある食堂にしていかなければいけません。
企業にとっての社員食堂とは、従業員の働く意欲、活力を引き出し、事業活動と、持続可能な社会の実現に貢献する資産なのです。
山崎 食堂のメリットは、たくさんあると思いますが、やはり一番は、先にも申し上げたように、すべてが「整ったメニュー」が、気軽に食べられるという事だと思います。今はコンビニや飲食店でもヘルシーなメニューは販売されていますが、主菜・副菜・主食・汁ものがセットになっていて、それが出来たて(焼きたて・揚げたて)を社内で食べられるのは社員食堂ならではだと思います。私たちはその点をメリットに感じて頂けるように運営していくことが使命と感じます。
また今年(2021年)の5月より、SDGsに対して食からのアプローチとしてカーボンニュートラルに貢献するために、畜産業から排出されるCO2の多さに着目して代替ミートメニューを開発・提供を始めました。「SDGsに対して何をすればいいか?」と考えたときに「あっ、食堂に行けばあのメニューを食べて貢献できるな」と、先ずは身近な取り組みとしての一歩をサポートできればと考えています。

Q 「社員食堂の良さ」が広く伝わらないのはなぜでしょうか?
中村 コロナ禍以前の「社員食堂を利用したい理由」は、「安い」「外に出るのが面倒」「短時間で済む」が理由となっており、一方「社員食堂を利用しない理由」は「おいしくない」「高い(割高感)」「種類や食べたいメニューが少ない」でした。その結果、利用しない従業員の人は、社員食堂からコンビニや飲食店を利用するようになりました。「社員食堂の良さ」を伝えるには、そういった利用しない従業員の固定概念と先入観を覆す必要があります。
先ずは、社員食堂は安くて美味しく、豊富な種類から選択可能でなければ興味さえ持っていただけなくなります。緊急事態宣言が解除となり感染者数も減ってきた今こそ、社員食堂が従業員の皆さんに見直されるチャンスだと感じています。時代の変化や今の従業員のニーズに対し素早く対応ができれば、社員食堂の存在意義は浸透していきます。また、クライアント企業の立場からも利用価値を上げていかなければ財務体質の健全化が図れず、社員食堂の規模を縮小したり、閉鎖を検討する事態になってしまいます。
次に社員食堂の存在意義ですが、健康経営とコミュニケーションだと思います。社員食堂の健康に配慮した献立は、従業員への健康維持・増進を支援させていただき、コンビニ弁当、飲食店の好きなものを好きなだけ食べることによる食の偏りもなく、塩分過多、カロリー増といったこともなくなります。従業員の健康に資する食事は、社員食堂の管理栄養士が立てる献立により食物繊維やビタミン類をバランスよく摂れるメニューになっています。このように従業員の健康に配慮した食の提供ができる社員食堂こそ、健康経営を目指す企業の責任であり、義務でもあります。
また、社員食堂の大切な目的として、従業員同士のコミュニケーションの場であり、組織内、業務外での良好な人間関係を形成することができます。社員食堂のコミュニケーションとは、人と人との距離を近づける、そんな効果が生まれるのです。
安心・安全が保証された社員食堂の存在価値とは、健康増進やコミュニケーションが活性化されていること、そして「なぜ今、社員食堂が必要なのか」という意義に的確に応える新たな価値の創造こそが、これからの社員食堂の評価基準になると考えています。
山崎 社食というと、ひと昔前まではただ昼食を食べる場、という風に捉えられがちでしたが、現在はニュースやテレビでいろんな企業のオシャレな社食が特集され、社食に対するイメージがだいぶ変わってきていると思います。しかしコスト面や社風などで社食を導入することに抵抗があるという会社もまだ多いのではないか、と思われます。
一方、このコロナ禍で家にいる時間が長くなったせいで、食に対しての意識も大きく変わったと感じます。「時間があるから少し手の込んだ料理をしてみようか」とか、今まで料理をしたことない人は「自炊をしてみようか」「出かけられない分食材にお金をかけようか」など、以前より食事に興味が増えている方も多くいらっしゃると思います。そんな今だからこそ、「今の社食って、こんな流行りのメニューが食べられるんですよ、選ぶだけでバランスが整ったメニューが食べられるんですよ、食べるだけでSDGsに貢献できるんですよ、いろんな選択肢があるんですよ」という社食のメリットを大いに発信していく必要がると感じます。
また、私たち運営側はそのニーズを敏感に感じとらなければならないと、以前にも増して必要に感じます。そして、新たに社食の良さに気が付いて頂けたお客様に対しては、ここが居心地のよい、午後の仕事への活力となるように、全力でサポートする事が役目だと思っています。
Q 今後の“社員食堂”はどのような方向に向かっていくと考えられますか?
中村 コロナ禍で喫食数が減っている社員食堂でも、会社に出社し、食堂を利用される社員様には、「安心・安全・健康・美味しい」に加え、新たな付加価値を提供することが私ども食堂運営会社の使命であると考えています。出社された社員様が全員食堂に足を運んでいただけるためにはどうすればよいかを日々考え、それを実践していきたいと思います。
先ずは「安心・安全」を最優先とし、ハード面での感染予防対策で安心な食環境を実現すること。そして、食堂スタッフへの日々の健康管理の徹底、新型コロナウイルス感染予防マニュアルの遵守の徹底をおこなうことです。
そしてコロナ禍でも社員食堂は進化していかないとその価値向上は達成できません。そのために、お客様には5つの運営コンセプトで社員食堂の存在意義と価値向上を実現します。
- バラエティ:豊富なメニューを取り揃えます。
・パワーアップメニュー・スマートミール・最新のトレンドメニュー - コミュニケーション:笑顔が溢れる空間を演出します。
・お客様応援フェア・ご当地メニュー・ためになる情報提供 - ストレスフリー:日々「カイゼン」を実践することで、スピーディーに食事を提供します
・トータルプランニング・デジタルサイネージ・CSアンケート(WEB) - 安心・安全:各種マニュアル遵守でコロナ禍でも安心・安全な食事を提供します。
・基本の7S活動・ISO9001・HACCP - 環境負荷低減:環境に配慮した仕組みを取り入れ、持続可能な社会をお客様と実現します。
・SDGs・フォードロス削減・カーボンニュートラル
これからの社員食堂はNO.5にあるように、喫食者に向けた健康と食糧の未来やSDGsについてご提案し、クライアント企業と一緒になって魅力ある社員食堂の運営を考えていたきたいと思っております。
社員食堂を運営する私どもとしましても、クライアント企業のSDGsの取り組みに沿って、食からのサポートを通じ社会に向けた価値ある提案をし、お客様にメッセージを送ることで持続可能な未来を考えていただくことが重要と捉えています。
山崎 在宅勤務が定着した今、コロナが収束しても、毎日出社という事はなくなるのではないかと思っています。その出社日にはぜひ食堂に足を向けてもらえるような食堂作りが、私たち運営側の今後の役割だと考えます。感染対策が行き届いた安全な場所の提供は大前提ですが、「整ったメニュー」で安心できる食事作り、SDGsに取り組めるメニュー、その時食べたいものがある、「個」に対応できるようなバラエティに富んだメニュー設定、それぞれの食堂ならではのイベントメニューなど、食堂に来ることでポジティブになれる食堂運営を実践していきたいと思います。
また、ワークスタイルが変化した今、休憩の取り方も様々になっているように思います。昼食の営業時間という枠にとらわれず、いつでもここにくればエネルギーチャージできる、ちょっと小腹を満たしたいなどのニーズにも対応できるよう、第2の我が家のような存在になれればな、と個人的では思っています。
もっと社員食堂を身近に、生活の一部として捉えていただけるよう、日々邁進して参ります。
ーこれからの取り組みも期待しています。ありがとうございました
(聞き手/社食ドットコム編集部:文中敬称略)