社食ドットコムが(一社)日本能率協会と行なったアンケート調査によると、「社員食堂を有している企業」では約90%超の社員が「社員食堂があった方が良い」と回答し、社員食堂の価値を認めている一方、「社員食堂を有していない企業」の社員で「社員食堂があったほうが良い」と回答しているのは約60%に過ぎませんでした。このことから、「社員食堂を有していない企業には、社員食堂の良さが十分知られていないのではないか」と推測されます。
新型コロナウイルスの収束がなかなか見えてこない昨今、社員食堂各社は社食業界の市場拡大のためにも、社員食堂の良さを「社員食堂を有していない企業」にも広くアピールする必要があると考られます。そこで社食ドットコムでは、企業の枠を超えて社員食堂の良さを伝えていただけるよう、さまざまな社員食堂運営会社の方々に社員食堂のメリットや今後の方向性について、お話しをうかがっています。
今回は東京・新宿に本社を構える株式会社グリーンハウス グループ開発本部の栗栖副本部長、岩橋さん、そして 海外事業本部 シンガポール事業支援室の泉部長にお話をお伺いしました。
【プロフィール】
栗栖 秀行(KURISU Hideyuki)/ 株式会社グリーンハウス 執行役員 グループ開発本部 副本部長 2015年 株式会社グリーンハウス入社。関東開発本部本部長に就任し、関東エリアを中心に営業開発に従事。2016年より現職。 食に関わる分野のマーケティング、営業開発に関わる企画開発 並びにバックアップ支援に携わる。中小企業診断士。
泉 透(IZUMI Toru)/ 株式会社グリーンハウス 海外事業本部 シンガポール事業支援室 部長 1998年 株式会社グリーンハウス入社。営業部にて店長・支配人などの店舗運営業務、その後、新規開発営業や開発企画(施設設計)を担当後2021年より現職。 現在は、グループ会社であるシンガポールTWP社の運営・開発支援を担当。
岩橋 理紗子(IWAHASHI,Risako)/ 株式会社グリーンハウス グループ開発本部 開発マーケティング部 兼 海外事業本部
2019年株式会社グリーンハウス入社。社員食堂にてホールマネージャーを経験し、2021年よりグループ開発本部にてnoteを通したSNS発信などを行う。その後海外事業本部にて、シンガポール事業にも関わる。
【会社概要】 株式会社 グリーンハウス
1947年4月設立。本社所在地 東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティタワー
事業内容はコントラクトフードサービス事業(官公庁・オフィス・工場・学校・病院・シルバー施設などでのフードサービスの提供)をはじめ、グループでレストラン・デリカ事業、ホテルマネジメント事業など、食と健康、食とホスピタリティに関連した様々な事業を展開。2021 年 3 月末のグループ年商は海外実績を含め 1,315 億円、店舗数は 2,651 店輔。
Webサイトアドレス https://www.greenhouse.co.jp/
Q 最近の社員食堂を取り巻く環境について教えてください
栗栖 まず社員食堂を取り巻く環境ですが、コロナ禍の後、10月に緊急事態宣言が明けた最近の状況についてお話をしたいと思います。(取材は2021/11月初旬)
緊急事態宣言が解除され、全体的には徐々に利用者の方が戻ってきている状況です。11月は更に良くなっていますが、本格的な回復軌道になるのはこれからということになるでしょう。部門別で見ると工場の生産拠点については、以前からほぼコロナ前に近い状況を取り戻しておりました。一方で大きな影響を受けたのはやはり都心部です。とは言え以前より落ち着きも見られ、各企業が今後の感染状況を睨みながら、アフターコロナの状況をどうするか「社員食堂のあり方」について検討され始めている段階です。「宴会を安全に実施するにはどうすればいいか」「お酒を提供するタイミングはいつにするか」といった相談もあります。
色々相談を受ける中で、企業ごとのバリエーションの幅も広がって来ていると感じます。その背景としては、社員食堂の位置づけが、従来からの福利厚生充実の観点に加え、それぞれの企業様が“自分の会社を表現する”そういった場の一つとして認識し始められている点もあると思います。
たとえば「テレワークはある程度は定着していく」ということを前提にしている企業様からは「社員が出社した日には、社員食堂に行くことでより高い満足度が得られる」とか「社員食堂で食べたことでより健康的になる」とか「より仲間とのコミュニケーションがとれる」「よりリラックスできる」というような、従来よりも高い取り組みが求められています。そういう意味では、今後社員食堂の利用頻度は減ったとしても、利用満足度は今までより一層高いものが求められるのではないでしょうか。
これからは単なる食事の提供だけではなくて、より密度の高い運営であるとか、食事提供以外の取り組み、例えばクライアント企業との多面的なパートナーシップが必要になってくると感じております。
Q 社食ドットコムでは「社員食堂を有していない企業の方は社員食堂のメリットを十分把握できていない」と捉えています。そこで改めて社員食堂のメリットについて教えていただけますか?
栗栖 社員食堂のメリットはたくさんありますが、基本となるポイントをまず三つ挙げさせていただきます。
まず「安全衛生管理がより徹底している」ということ。他の飲食業態も当然衛生に対しては徹底されていますが、社員食堂の場合は企業の運営に支障をきたすことができないといった責任もあり、より高い水準の安全衛生体制が求められます。これが一つ目です。
二つ目は「メニュー数が多い」ということです。市中の飲食店と違い同じ利用者の方が毎日利用されるので、提供するメニューを毎日変える必要がありますし、幅も広げる必要があります。そのためメニュー数が豊富になり利用者の方の選択肢が増えます。
そして最大のメリットとなる三つ目は「クライアントである企業様の考えを反映した運営が可能である」ということです。企業様の考えを具体的に申し上げますと、「健康的であること」、「食べるのが楽しみになるような料理やレストラン以上の美味しさ」だとか、「SDGsなどの環境に優しい取り組み」、「仕事の能率がアップするブレインコンディショニング等多様な取り組み」が挙げられます。
その中で、最も多くの企業様に共通するテーマが「健康」です。この点をもう少しお話致しますと、社員食堂があることで、利用者ににとっては健康面での大きなメリットがあると考えています。「毎日利用する」ということを考えると、1年で240食、10年で2400食を召し上がっていただくことになります。そして、その方が一つの企業で10年、20年、30年と働くことを考えると、「栄養バランスを考慮したメニューを自然と食べることができる」ということは、その方個人の健康に大きなプラス効果があると考えています。やはり「意識せずとも知らず知らずのうちに健康的な食事ができる」、ということは、社員食堂の大きなメリットの一つと言えるのではないでしょうか。
また、コロナ禍においては社員食堂で他の人と喋れないため「自席で食事を摂りたい」という要望にお応えするため、管理栄養士監修のスマートミール基準をクリアするテイクアウト弁当を開発しました。このお弁当にはQRコードが付いていて、それをスマホで読み込めば管理栄養士の健康セミナー動画が視聴できるという仕組みとなっています。健康的なメニューに加え、簡単に健康情報を得られるということもメリットです。関心をお持ちの多くの方に、是非召し上っていただきたいと思います。
健康診断の数値が悪い人に向けた栄養管理など、社員食堂は健保組合や人事部のような健康を推進する部署の意向をそれぞれ反映できるという健康経営への取り組みも大きなメリットといえます。
Q 「社員食堂の良さ」が広く伝わらないのはなぜでしょうか?
岩橋 たくさんある社員食堂の良さが伝わらないのは、社員食堂を設置している企業の社員の方以外、外部の方が利用する機会は限定的だからということにほぼ尽きるでしょう。利用しなくてもわかる情報しかないため、「近い」とか「安い」という点のみが特徴として認識されてしまい、「それだけ」の施設と思われてしまうからではないでしょうか。また、多くの社員食堂は運営会社が受託をしていますが、やはり施設はクライアント企業様がお持ちですので、その情報を我々が積極的にPRしずらかったという面もあります。
そんな中、当社でも社員食堂の良さを広く理解していただきたいと考えており、インスタグラムや公式note(ノート)といった媒体を利用しながら、可能な範囲で情報発信を行なっています。
たとえば社員食堂においてスイーツイベントや手作りのドラヤキ、ドーナツイベントなどを行なった際は、そのイベントにかける想いであったり、こだわりや思い入れなどをインタビュー形式で紹介しています。
また弊社にはとても笑顔が素敵なネパール人シェフがいますが、カレーも大変美味しくて”キャラ立ち”しているので、インタビューをしてこだわりを紹介するとともに、レシピの公開もしています。また管理栄養士さんの出身地のご当地料理とそのレシピを紹介したり、健康ワンポイントアドバイスを掲載したりといった取り組みを行なっています。
このような料理のことやその裏側などをどんどん情報発信していくことで、「社員食堂ってこんな感じなんだ」という驚きにもなるかもしれないですし、そこに携わっている人々の想いを紹介できればと思いながら運用してます。
社食だからこそできることがあります。毎日いらっしゃるお客さまだからこそできる体のサポート心のサポート、一方で毎日違う料理を提供したり、非日常を演出しないと飽きがきてしまう。さまざまな点から工夫が必要で日々進化していく施設となっているのでしょう。
ただ、これから社員食堂の良さをわかっていただくという面では、社員食堂業界全体として連携をしながら、その良さPRをしていくということは必要だと思います。
Q 今後の“社員食堂”はどのような方向に向かっていくと考えられますか?
栗栖 今後の社員食堂についての方向性としては三つあります。一つは「デジタル化」、二つ目は「多様性」、最後はそれを含めた「SDGs」です。もともとこの三つの軸を“近未来”のテーマとして捉えていましたが、コロナ禍を経てこの軸が一気に“現在”になっています。
たとえば「デジタル化」ですが、テレワークが進んで社員食堂を利用する機会が減った社員は、栄養の偏りが多くなりがち。その健康維持のために、弊社が開発した健康アプリを利用いただいています。このアプリは、社員食堂で食べたメニューだけでなく、自宅で摂った食事を写真で撮影することによって、カロリー計算だとか栄養素などを自動で反映します。AI管理栄養士が摂取カロリーに対して「これだけカロリーを消費しよう」とアドバイスしてくれたり、栄養バランスを考慮し「これを食べよう」とレコメンドしてくれるというものです。それ以外にもコロナ太り対策のイベントなど、楽しみながら健康が維持できる工夫がなされています。
これからは「デジタル化」「多様性」「SDGs」の軸が、それぞれが独立しているのではなくて、デジタル化によって食数予測AIが進むと、フードロス対策が行なわれSDGsに繋がる、というように有機的に連携していくと考えています。
また、弊社はシンガポールで一番大きい社員食堂運営会社をグループ企業に持っており、先進的な取り組みも行なっているので紹介させていただきます。
泉 シンガポールのグループ企業TWPは、現地で約70ヶ所のホテルや工場、企業の社員食堂を運営をしております。シンガポールは国土が東京23区程度の面積の中に約570万人が暮らしており(2020年/外務省HPより)、自給率が約10%と低く、国策で2030年までに自給率を約30%ぐらいまで上げることを目標としている状況です。
そんな同国では、今回の世界的なコロナ禍から自給率を上げていくために、“テクノロジー”という領域が鍵となっています。国家としてテクノロジーに対する支援が厚く、我々独自では開発できない規模のシステムの開発も可能です。当社が運営している会社においても、テクノロジー化が非常に進んでおり、モデル店となるような店舗が2021年10月にオープンしましたが、ここではテクノロジーを生かして「非接触注文・精算」「オートメーション」といった取り組み、マスクをしたままでの顔認証といった運用も開始しています。
このようなテクノロジーや開発したソリューション、事前食事予約アプリなども2022年を目処に日本にも水平展開することを検討しています。他にも夜勤の方が利用しやすい保温・保冷機能をもつフードロッカーなど、日本ではまだ見ることのないアイテムやサービスもありますので、そういった海外の良いものを取り組むことによって、さらに未来を切り開いていくことができると考えています。
栗栖 日本給食協会の区分によると「集団給食」は社員食堂が含まれる「事業所給食」「学校給食」「病院給食」「保育所給食」のカテゴリーに分類されますが、その中において「社員食堂」の分野は環境変化が一番激しいカテゴリーです。従って、時代や状況に対応する迅速かつ大幅な変化が求められるのがこの社員食堂だと思ってます。今の段階で「将来はこんな状況だろう」と思っていても、それとは違うような動きがこれからも出てくるでしょう。そういった意味では社員食堂業界というのはアクティブで面白いカテゴリーだと感じてます。
━今後も期待しています。ありがとうございました
(聞き手/社食ドットコム編集部:文中敬称略)