社⾷ドットコムが(⼀社)⽇本能率協会と⾏なったアンケート調査によると、「社員⾷堂を有している企業」では約90%超の社員が「社員⾷堂があった⽅が良い」と回答し、社員⾷堂の価値を認めている⼀⽅、「社員⾷堂を有していない企業」の社員で「社員⾷堂があったほうが良い」と回答しているのは約60%に過ぎませんでした。このことから、「社員⾷堂を有していない企業には、社員⾷堂の良さが⼗分知られていないのではないか」と推測されます。
新型コロナウイルスの収束がなかなか⾒えてこない昨今、社員⾷堂各社は社⾷業界の市場拡⼤のためにも、社員⾷堂の良さを「社員⾷堂を有していない企業」にも広くアピールする必要があると考られます。そこで社⾷ドットコムでは、企業の枠を超えて社員⾷堂の良さを伝えていただけるよう、さまざまな社員⾷堂運営会社の⽅々に社員⾷堂のメリットや今後の⽅向性について、お話を伺っています。
今回は東京・⼤⼿町に本社を構える株式会社LEOCの富永上席執⾏役員にお話を伺いました。
【プロフィール】
富永 太(TOMINAGA,Futoshi)/ 株式会社LEOC上席執⾏役員 営業企画本部 本部長
2019年に同社へ入社し、B&I分野(社員食堂・工場食堂・スポーツ施設など)の事業担当、営業担当を経て2022年1月より現職。
【会社概要】
株式会社LEOC/LEOCは、1983年に創業以来、コントラクトフードサービスのエキスパートとして、「⼼」のこもった⾷事サービス提供に努めています。北海道から沖縄まで2,600ヵ所以上の施設で⾷事を提供し、オフィス・⼯場の社員⾷堂、寮、学校、スポーツ施設などのB&I分野(ビジネス&インダストリー)と⽼⼈ホーム、病院、保育園、障がい者施設などのHC分野(ヘルスケア)を中⼼に、バランス良くさまざまな業態において⾷事サービスを展開しています。B&I分野で築かれたメニュー開発・企画⼒、HC分野で築き上げた栄養管理の経験やノウハウ、また、グループ内で展開している外食分野における本物の美味しさとブランド力を駆使して、フードサービス業界において総合的にパフォーマンスを発揮しています。全国規模のスケールメリットを活かしつつ、お客様⼀⼈ひとりのニーズに合ったオーダーメイドの提案ができることがLEOCの強みです。
本社所在地:東京都千代⽥区⼤⼿町1丁⽬1番3号⼤⼿センタービル16階
Webサイトアドレス https://www.leoc-j.com/
Q 最近の社員⾷堂を取り巻く環境について教えてください
富永 世界を揺るがす感染症の影響により、社会、経済、生活分野に至るまで様々な変化が生じる中、社員食堂を取り巻く環境にも大きな変化が生じてきました。コロナ禍における今後の企業活動のあり方、生産性などが議論されるようになり、『働き方改革』を掲げる企業は増え、オフィス全体、社員が仕事をするスペース、それに関連する付帯機能についても、この間様々な検討がされはじめてきました。社員食堂についてもその使い方、スタイル、意義までが幅広く見直されるケースも増えつつある印象を受けています。
コロナウイルス感染の状況・程度によって特に大都市圏におけるオフィス食堂の利用状況は増減を繰り返しているのが現状と捉えており、「多くの利用者で賑わう場所」という従来の食堂イメージから「分散利⽤、混雑緩和」を促し、以前よりも営業時間を⻑く設定する食堂が増えてきました。密集や他者との接触をできるだけ避けたいという利用者側の意識と、安全性、そして変化する利用規模やニーズにフレキシブルに対応できる形を模索したいという食堂を管理する側(会社側)の思惑などが絡み合い、安全対策をベースにしながらも様々な社員食堂のスタイルが各地で試されはじめているものと理解しています。
集団での利用リスクが非常に大きいと考え、社員⾷堂機能を廃⽌したケース、スペースの利用価値を高めるために利用が縮小した社員⾷堂を他の施設に改修したというケース、シンプルに安全策を強化して、これまで通りの食事サービスの形を維持していく生産現場などでのケース、もしくは新たな社員⾷堂の使い⽅・スタイルやこれまでは想像できなかった⾷事サービス・価値を探していくケースなど、大きくはこのような変化がおきてきていると捉えています。ステークホールダーの意識は環境変化に大きな影響を受け、結果的に社員食堂の価値そのものまでもが再評価がされる事にも繋がってきていると考えています。
今後も社員食堂を取り巻く環境は、まだまだ変化をしていく可能性が高く、その都度、新たなスタイルを模索し、利用価値の高い施設、サービスづくりへの挑戦は続くでしょう。当社も、従来の社員食堂の運営スタイルに加えて、リモート時代だからこそ社員が安全に集まる事、楽しい会話の中から新たなアイデアを生み出す事の出来る、そういったリモートワーク・スタイルを補完する新しい社員食堂の機能を企業の方々ともに生み出す事にも大きな重点を置いております。
Q 社食ドットコムでは「社員食堂を有していない企業の方は社員食堂のメリットを十分把握できていない」と捉えています。そこで改めて社員食堂のメリットについて教えていただけますか?
富永 「社員⾷堂は、会社において⼀度に多くの⼈が集まれる場所である」ということは絶対的な事実だと思うんですね。集まるかどうかは別としても、多くの⼈がリラックスした状況の中で集まって、「雑談ができる」「仕事の話ができる」「元気かどうか確認ができる」といった意味では、コミュニケーションのスペースだと思います。
また、企業にとって「⽣産性の向上」ということを考えると「社員⾷堂があり社内で⾷事ができる」ということは大きな利点です。働く社員が多忙で「いつ食事ができるかわからない」といった状況でも「ちょっと時間が空いたので、この間に⾷べよう」といった使い⽅ができます。また「さまざまな情報発信」の場としての利⽤や「複雑な勤務形態に対応できるスペースとしての利⽤」など、やはり⼀定以上の価値はあると思います。
そして昨今は各企業が特に意識している「安全性」が挙げられます。新型コロナウイルスの感染拡大が発⽣して以来、やはり勤務時間中の⾷事における安全をどう確保するかという意味では、「社員に対する安全性確保」、「衛⽣対策が施されるスペース」として社員⾷堂の価値は従来よりさらに上がったものと思います。
もちろん⼀般のレストランなどの外⾷店でも衛⽣対策をとられていますけれども、やはり企業側が⼀番⼼配するのは、「社員が利⽤する⾷堂に誰が出⼊りするのか」が、明確かそうでないかという点です。少なくとも⾃社の社員であればワクチンを接種している⼈達であるとか、検温をクリアーしている⼈とか⼀定の事が担保されているので、その中でさらに設備に対する衛⽣対策を実施すれば、市中の外⾷店よりは感染のリスクが低いということは⾔えるものと思います。
また、最近は⾃社ならではのオリジナリティ、独創性、独⾃性を打ち出す事ができるかという点も⼤きなメリットになっていると思います。「社員⾷堂で何か⾃社の個性を出したい」「⽇常の⾷事以外にも、普段にない使い⽅をしてみたい」という希望がある時、たとえば弊社でしたらすべてのメニューをL’thicalメニュー(LEOCが取り組む代替たんぱく質を中⼼としたレシピのラインナップ)にする⽇を作るとか。
このような例も独⾃性だと思いますし、いろんな想いを自社の社員⾷堂を通して実現できる事があるという事も⼤きなメリットであると考えます。自社の社員食堂の位置づけをどう認識し、どう運営していくのかが社員⾷堂の価値を左右する重要な要素ですね。
Q 「社員食堂の良さ」が広く伝わらないのはなぜでしょうか?
富永 ⼀つ⽬の⼤きな理由というのは、世の中に社員食堂の数がまだまだ少ない事ではないでしょうか。国内で従業員100⼈以上の企業数は約4万1千社程度と⾔われておりますが、社員⾷堂を所有している企業数は相当限られているのが現状です。社員⾷堂を所有する事⾃体、企業とっては非常に大きな経費(イニシャルコスト、ランニングコスト)になっているという事実があり、この事はこれからも付き纏うものだと思います。
⼆つ⽬はやはり社員⾷堂というのは、良くも悪くもプライベートなんですよね。最近は社⾷ドットコムさんのように、社員⾷堂の特徴や良さについて世の中に広めて頂ける専⾨サイトもありますが、なかなか外部からはその詳細を知ることができません。
SNSなど情報インフラの発達によって社員食堂の情報はいくらか一般にも知られるようにはなりましたが、企業名や食堂の存在を知る事が出来てもどのように便利なものであるのか、魅⼒的なものであるのか、企業活動にどのような影響があるのか・・・そういうことはほとんど伝わらないのが実情だと思います。
近年では⾃社の社員食堂の魅力度を⾃ら強く発信され、企業の総合的な活動として逆にアピールの材料にしているケースもありますが、社員食堂を有する企業がまだまだ世の中には少ない事、またその活動が個々の企業のプライベート空間で営まれるという観点から考えても、「社員食堂の良さ」が世に伝わりづらい現状があると考えています。
フードスペースの持ち⽅によっては、どれだけ企業活動にプラスになる可能性があるのか、実際に提供できるお料理やサービスに加えて、この事を我々社員食堂運営側の企業としても提案していきたいですね。
Q 今後の“社員食堂”はどのような方向に向かっていくと考えられますか?
富永 コロナ以前にも社員⾷堂の独⾃性ですとか、コーポレートアイデンティティの実現という視点のもとに、新しい付加価値をつけていこうと考えておられた、あるいはもう既に実践しておられるいくつかの企業があります。こういった企業は、やはり変化に対する対応が⾮常に早いという特徴、あるいは企業の意思決定が⾮常にスピーディーにできるというような特性を持っておられます。
そのような企業はこれからの時代において、さらに新しいスペースのあり⽅について研究されており、当社も提案を求められる事が多くあります。その中の要素として⼀番⼤きいのはやはり健康視点です。コロナ以前から企業としての健康経営の実現を考えたとき、社員⾷堂やそれに類似するスペースで何ができるのかというところをいろいろ皆さん考えてこられたと思います。
この健康視点については、「⾷堂の規模にかかわらず、企業側と運営会社側の取り組み次第でやれることが沢山ある」こと、「ITの⾰新によって様々な形の健康経営の提案ができる」ということが⼤きなポイントであると思います。当社においても、健康アプリの提案、献⽴作成AI『Lappy』を導入するなど、⾷事サービスやそれに関連する新たなサービスを提供する事で、社員の活動をさらにサポートする提案をさせて頂いております。
やはり社員が疾病にかかってしまう確率を下げることや、潜在的な原因を発⾒することによって、会社としての⽀出や⼈材の損失を防げるということもわかってきていますので、こういった健康への取り組みは、業界内外問わず今後沢山出てくるでしょう。
またコロナ禍になって感じるのは、「⾷堂」という決まった形態にこだわらず、多機能・多様性のあるスペースにしたいという企業側のニーズが強い事です。コロナ前まではスペースが広くて、オシャレで、沢山メニューがあれば、それが先進的な社員⾷堂という傾向もありました。もちろんそれは素晴らしい事ですが、今後はこれまでとは違う新しいシーンも登場してくるのではないかと思います。
例えば、少ないスペースでもセンスの良いキッチンがあって、SDGsに関連するメニューや、いつも⾷べたい、おいしくて体に良い健康メニューが提供される。このような事を社内外に対してきちんとプロモーションができれば、利⽤価値、施設価値を⾼めることが出来ると思いますし、成功の事例が出てくるものと思います。
そしてこのようなスタイルに最も魅⼒を感じるのは、おそらく就職活動をしている学⽣さんなどではないでしょうか。会社を選ぶとき、企業の大きさやブランドイメージ、今でもネームバリューを重要視する方々も多くいると思いますが、一方で「働く環境は充実しているのか」とか「オフィスのスペースはかっこいいのか」とか、「カフェはどうなっているのか」などといったことが最近は重要視されるという事もお聞きします。
必ずしも大きな社員食堂ではなくても、そこで働く人たちに喜んで頂けて、健康を支えることができる施設。結局のところ、社員が気持ちよく働ければ仕事のパフォーマンスの向上につながっていきますし、そうなれば企業の業績も伸びる方向になっていくでしょう。
社員食堂のフェーズは時代のニーズともに変化し発展してきました。製造現場などにおける労働と一体となった必要な食事、勤務場所における食事スペース(社員食堂)の確立、選択肢・食の楽しさの導入、健康意識への対応、そしてアフターコロナの時代では変化する働き方に対応できる、企業それぞれの社員食堂の機能が求められはじめています。企業の食や食堂に対する考え方がこれまでよりも意識されるようになり、その中にはこれまでにはない、具体的に利用者の健康を支えるスタイルも考えられますし、食のパーソナリゼーションの領域まで発展する食堂の取り組みも十分に考えられるでしょう。
企業や社会の発展に寄与していく食の在り方を積極的に意見交換できる業界になっていくことを期待しています。
ーこれからの取り組みに期待しています。ありがとうございました。
(聞き手/社食ドットコム編集部:文中敬称略)