【新春特別企画】社食運営企業トップインタビュー/「どうなる? 2023年の社員食堂業界」【エームサービス 小谷 周社長編】

昨今は新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、出社制限やテレワークの採用が進み、社員食堂そのものの必要性すら問われる時代となっています。しかし不特定多数との接触がないことや栄養バランスの良さ、社員同士のコミュニケーションの場となるなど社員食堂のメリットについてはあまり語られることがなく、社員食堂を有していない企業の方々には、その実情が届いていないことが懸念されます。

このような中、社食ドットコムでは、社員食堂運営会社のトップの方に「社員食堂の良さ」を発信していただき、社員食堂の必要性を社員食堂を有していない企業の方々に理解していただき、社員食堂の市場拡大につなげることが業界全体のメリットに繋がると考えています。

そこで、社員食堂運営業界にて長らく活躍されている社員食堂運営会社のトップの方を直撃取材。「トップが語る、2023年の社員食堂業界」をテーマとして、社員食堂のメリットはもちろん、社長の人となりから今後の社員食堂がどのようになっていくのか? などについてお話をうかがいました。

今回は、エームサービス株式会社の小谷 周社長です。

【プロフィール】
小谷 周(こだにまこと)
エームサービス株式会社 代表取締役社長。
東京理科大学 工学部 建築学科卒業後、1991年3月に三井物産株式会社に入社。コンシューマーサービス部門を中心にロシア、米国での勤務を経て、2017年4月に同社へルスケア・サービス事業本部サービス事業部長(現ウェルネス事業本部ホスピタリティ事業部長)およびエームサービス取締役に就任。2021年6月にエームサービス代表取締役社長に就任。

【会社概要】
エームサービス株式会社
資本金100百万円。連結売上1,732億円(2022年3月期)連結従業員数44,031名(2022年3月時点)
1976年に三井物産株式会社と米国大手サービスマネジメント会社のアラマーク社を含むグループ企業の合弁事業として設立。現在ではオフィス・工場をはじめ、病院・社会福祉施設、学校、スタジアム・トレーニングセンターなど、グループ全体で全国約3,900カ所の施設で、1日約130万食を提供。
2024年3月期の第1四半期冒頭を目途に三井物産100%出資子会社へと移行する予定。

本社所在地:東京都港区赤坂2丁目23番1号 アークヒルズフロントタワー
Webサイトアドレス:https://www.aimservices.co.jp/

大学で学んだ建築との共通点

Q1. 社長の経歴や人となりについて教えてください

小谷社長 私は大学で建築の意匠設計を学びましたが、「建築」には4つの世界観があると考えています。まず物理的に超高層ビルがどうやって建つのかという「科学」の世界。次に美しいかという「芸術」の世界。そして 1 棟建てるのにいくらお金を出せるかという「経済」の世界。最後はこれをどう建てるか、建てた後に使いやすいかという「工学」の世界。この4つの要素が混じり合っている中で、私は「芸術」を、建物のデザインを優先して勉強しました。

就職にあたり、建物をデザインしたいのか、建物に来る人間の行動をデザインしたいのかを考えるようになり、後者を選びました。人の行動をデザインしたいという思い、その場所があることでワクワクする、何かが生み出されるといったことに惹かれ、箱を作るのではなく、箱の中身を作る仕事をしようと三井物産に入社しました。

実際に商社パーソンとして、20代から30代中頃までは海外との貿易実務や会社運営に、30代中頃以降はサービス業を中心に関わりました。医療や人材をサービス業の目線で捉えるというもので、ちょうどリーマンショックの前後に赴任していた米国で、サービス業がインターネットサービスに変わっていく変革を目の当たりにし、また、当時の米国では人間が持つ知識や技能はとても大切なものだとして、ヒューマンリソース(資源)ではなく、キャピタル(資本)であると再認識されていたこともあり、人材にフォーカスしたサービス業を追求していました。

また、世界の国々の異なる文化の人たちと仕事をする中で、食の力は万国共通だと経験を通して学びました。シベリアで木材加工を運営していた時は、労働する上でのモチベーションの源泉を探りました。中でも真っ先に取り組んだことは社員食堂の強化でした。食事という行為や空間を通じて、共感や共生の心を育むことはロシアでも米国でも同様に大切なプロセスでした。時は流れ、つい最近も、当社に職員食堂をお任せいただいている病院の経営者の方が、食堂が先生方に好評なことを大変喜ばれていて、「やはり胃袋をつかむって大切なんですね。」というお話しをいただきました。自分たちのことをどれだけケアしてくれているのか、大切に思ってくれているのか、これは結構伝わりやすいメッセージですよね。

ロシア、米国と海外勤務をし、その後、エームサービスと巡り合うのですが、そこで感じたことは、その昔、大学で学んだ建築との共通点でした。エームサービスが提供する料理には、おいしい、美しいといった「芸術」の要素や、栄養素、カロリーといった「科学」の要素もある。ミシュランの高級料理のように一食に何万円も出してくれるものではないコストコントロールという「経済」の要素も大きい、さらにお昼の60分間でどれだけ大量に安全に食事を提供できるかということは、高層ビルをどうやって建てるのか、という建築エンジニアリングの発想とまったく同じ「工学」の世界だなと感じ、強く興味を持ちました。また、同時にエームサービス以外にも複数のサービス会社の取締役として、世の中のサービス業を俯瞰し、人口動態が変化する今後についても常に思いを馳せていました。

建築デッサンに明け暮れた大学時代、商社パーソンとして、さまざまな国で、いろいろな人達と仕事をした経験、人財の大切さ、食の持つ偉大な力への気づき、インターネットサービスの活用、そんなことが、ぐるぐるっと回って、現在のエームサービスでの仕事につながっていると感じ、この幸運に感謝しています。

エームサービス株式会社 小谷周社長

ニーズに対応し、新たなサービスを創出する

Q2. 御社の特徴を教えてください

小谷社長 エームサービスは設立47年を迎えます。当社は三井物産の本社ビルの社員食堂から事業をスタートし、今では、グループで受託施設4,000カ所に迫る規模まで成長しています。

特徴の一つ目として、まず、展開する事業領域の広さが挙げられ、 社員食堂をはじめ、病院・社会福祉施設、学校、スタジアム・トレーニング施設、さらには刑事施設まで、食とその周辺サービスを含めた複合サービスの提供へと活動のフィールドを拡げています。

これは、会社設立時より「ホスピタリティサービスカンパニーでありたい」ということを基軸とし、一貫して、社会やクライアント企業のニーズに対応し、新たなサービスを創出することにまい進してきた結果だと思っています。

一例として、屋台の様に区画ごとに分けてフード販売を行っていた従来の野球場を「ボールパークにしたい」となると、全体をトータルにプロデュースする必要があります。幅広い客層に向けたバランスの良いメニューラインアップに加え、数万人規模の来場者に対して、安全衛生を担保した上で大量に料理を提供するといった要素も必要になりますが、大量給食のノウハウをテコに、クライアント様のニーズを取り入れながら新しいサービスの形にしていく、この積み重ねの歴史が当社の強みでもあります。

二つ目は、高いプロ意識と専門性をもって挑戦し続ける人財の育成に力を入れていることです。昨年の4月には企業内大学「エームアカデミー」を開校し、約半世紀にわたり培われた学びの要素を整理の上、独自のオンライン学習システムを構築し、会社支給のアイフォンを活用しながら、各地の事業所に所属する7,000名を超える社員がいつでも、どこでも効率良く、均等に学べる環境の整備を行いました。

その他、調理の専門技術を競う社内コンテストや世界大会への派遣、栄養士・管理栄養士による情報交換会などの開催に加えて、早稲田大学スポーツ栄養研究所への研究員の派遣や、最近では、「時間栄養学」の分野でも食事のタイミングと人の周期的な生理現象や健康状態との関係について、兵庫県立大学大学院との共同研究を開始しています。温かくおいしい食事の提供とお客様の健康、食文化を何より尊重し深めつつ、エビデンスを追求し科学していくところが、当社らしい取り組みともいえると思います。

三つ目は、クライアント企業の価値を最大化するパートナーたらしめる業務の遂行能力と組織体制の実装にあります。現場責任者からディストリクトマネジャー、事業部長までの各階層での迅速な対応や全社のノウハウを展開してきたことにより、共に考え、提案し、実証していくコンサルティング的な関わり方からお取引につながる事例も出てきています。

また、クライアント様の施設内でサービスを提供する事業者として、資本・財務面の安定やコンプライアンスの順守、自然災害や万が一の食中毒事故などへの対応や備えについては、事業継続の面からも安心できるパートナーとして業務をお任せいただけるように、常日頃から心掛けているところです。

エームサービスは、これまで培ってきたノウハウや組織の強みを生かし、最高の人財による最高のサービスを提供することにより、これからも求められ、選ばれるパートナーであり続けることを目指しています。

「食」コンテンツが持つ効果は大きい

Q3. ウイズコロナ、アフターコロナにおける社員食堂のメリットについて教えてください

小谷社長 ウイズコロナにおいては、改めて「食」はあらゆる人々の活動の源であり、いかなる場合でも止めることは出来ないということを再認識しました。医療および社会福祉施設での食事提供をはじめ、クライアント様と協議を重ねながら、生活関連サービスのインフラ企業としての使命感を持って対応してきました。健康に配慮した安全・安心な食事を安定的に提供することは重要な課題であり、社員食堂の機能がその解決の一助となっていたことに間違いありません。

アフターコロナにおいては、人手不足が深刻化する中、企業や医療・福祉など領域を問わず、働き手と組織のエンゲージメントを重視する傾向が強まってきています。テレワークなど働き方の変化は業務効率化などのメリットが多い半面、コミュニケーションの減少や従業員の健康管理面での課題をもたらしました。こうした現状を受け、戦略的な「共創の場づくり」や従業員のウェルビーイングに取り組むクライアント様も少なくなく、リアルとリモートの課題を補完し合う環境整備が進んでいます。オフィスには、コミュニケーションの場として、人々が集いやすく、斬新な発想や自由な議論を促すオープンで快適な空間であることが求められてきているのですが、その中で社員食堂やリフレッシュメントスペースなどの「食」コンテンツが持つ効果は大きいといえます。

また、福利厚生のあり方が見直される中、社員食堂の設置目的は従来の用途を超えて多様化してきています。当社の受託事例では、事業やサステナビリティに係る重点目標(食材ロスや健康、地域との共生など)を施設のコンセプトとして取り入れ、企業として社内外に伝えたいメッセージについて、社員食堂を通じて表現されるクライアント様も増えてきています。これには、ブランディングのみならず、人財の新規採用や定着への良い影響も期待されていると感じています。

手探りでご苦労されている企業の人事・経営企画の部門の方よりお声かけいただくケースが増えていますが、当社についてはアイデアの引き出しの多さや、何よりも決められた期間でサービスとして形にする実行力の高さも評価をいただいている点かと思います。今後もクライアント様が思い描かれている職場環境やエンゲージメント施策、福利厚生サービスの具現化と期待される効果の最大化に努めてまいります。

ホスピタリティサービスビジネスはまだまだ発展する

Q4. 2023年の社員食堂業界の展望について教えてください

小谷社長 ここ数年で、かねてより中長期的な将来予測として挙げられていた社会課題やその解決策としてのデジタルサービスにおいても一気に時計の針が進みました。少子高齢化、労働力人口の減少の顕在化という負の側面と、デジタル通信、AI やIoT などの技術発展による働き方やビジネス環境の変化という正の側面が同時に急速に進んでいます。労働集約型産業である給食業界全体としても、この負の側面への対応と、正の側面のメリットの極大化に向けた取り組みが必要となります。

当社では、持続的に成長できる組織づくりのために、全社員のワークライフバランスのとれた働き方を実現する施策として2023年4月から事業所勤務を含め正社員の年間公休122日化を、また事業所運営における業務負荷軽減に向けたDX施策を加速しています。社員がデジタルツールや機械でできる業務から解放され、人間にしかできない業務、つまりは、クライアント・カスタマーリレーションやホスピタリティ、新しいサービスの創出などに集中することで、「最先端の働き方」と「サービスの質」の向上を目指しています。

また、食材の高騰への対応は当然ですが、物流業界における「2024年問題」に備えた配送業務の負荷軽減・配送回数の適正化や、安定供給を見据えた国産食材の導入などの具体的な施策が求められます。当社も「食材を使う・食事を提供する者」としての責任を自覚し、生産者、取引先と連携した「持続可能な購買・物流体制」の再構築を行っています。

持続可能性に配慮したサービスやSDGsへの取り組みについては、現在でもほぼ全てのクライアント様が関心をもたれており、ご要望も多くいただきます。食材ロスの削減や地域との連携(地産地消)、プラントベースフードの導入や環境に配慮した取り組みへのニーズはますます高まってくるはずですが、今後はアイデアだけでなく、一つひとつの取り組みの精度の高さや、実行力、浸透力が評価されるようになると感じています。

社員食堂の「食」だけを捉えると、労働力人口が減っていくことは間違いないので、食べる人の数は少しずつ減っていくはずです。一方で、医療関連施設までを含めれば、今後2040年までは医療福祉需要の増加が予測されており、市場としては微増または横ばい程度と見込んでいます。

そのような環境下、食に限定した給食業界の伸びしろは大きくないかもしれませんが、食以外も含めた「ホスピタリティサービスビジネス」としてはまだまだ発展すると思っています。サービスビジネスは皆そうですが、業界全体で新しいサービスを推進していかないと伸びないんです。現在、各社が競って新しいサービスを作ろうとしていますが、そこで出てきた物をお互いに真似しあって大きくしていくことで、世の中での認知も高まり、業界も成長します。我々も頑張って新しいサービスに入っていきますし、他社の素晴らしいところからも学び、我々も学ばれ、新たな「当たりまえ」となる産業領域を作っていきたいですね。

日本の社員食堂は世界の食文化が反映され、安全衛生面をはじめ大変高い品質のサービスが提供されています。これは業界全体として世界のどこに出ても負けないような鍛えられ方をしているからです。そして各社それぞれに特徴があり、魅力があります。

若いころ米国で経験しましたが、産業見本市などの公式な場で、給食業界をけん引する企業の皆さんと、業界全体を考えた会話をし、発信することが出来ればと思います。切磋琢磨し給食業界を盛り上げていきたいと考えています。

-貴重なお話をありがとうございました。

(聞き手/社食ドットコム編集部)


会社名エームサービス株式会社
所在地東京都港区赤坂2丁目23番1号 アークヒルズフロントタワー
公式WEBサイトhttps://www.aimservices.co.jp/

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