昨今は新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、出社制限やテレワークの採用が進み、社員食堂そのものの必要性すら問われる時代となっています。しかし不特定多数との接触がないことや栄養バランスの良さ、社員同士のコミュニケーションの場となるなど社員食堂のメリットについてはあまり語られることがなく、社員食堂を有していない企業の方々には、その実情が届いていないことが懸念されます。
このような中、社食ドットコムでは、社員食堂運営会社のトップの方に「社員食堂の良さ」を発信していただき、社員食堂の必要性を社員食堂を有していない企業の方々に理解していただき、社員食堂の市場拡大につなげることが業界全体のメリットに繋がると考えています。
そこで、社員食堂運営業界にて長らく活躍されている社員食堂運営会社のトップの方を直撃取材。「トップが語る、2023年の社員食堂業界」をテーマとして、社員食堂のメリットはもちろん、社長の人となりから今後の社員食堂がどのようになっていくのか? などについてお話をうかがいました。
今回は、フジ産業株式会社の久田 和紀社長です。
【プロフィール】
久田 和紀(ひさだ・かずのり)
フジ産業株式会社 代表取締役社長。
1985年3月青山学院大学卒業。同年4月豊田通商株式会社入社。審査部、都市開発部勤務、生活産業企画部長、食料生活部門豪亜部門長を経て2018年6月よりフジ産業株式会社代表取締役社長。2019年3月新企業ビジョン「The Partner for You」を制定、食を通じて従業員、顧客、社会と共に発展する企業を目指している。座右の銘は「諦めたらそこで試合終了ですよ」
【会社概要】
フジ産業株式会社
1968年(昭和43年)1月設立。資本金4,700万円。売上120億円。事業所数約550ヶ所。従業員数3,600名(2023年12月現在)。中堅の給食会社として社員食堂、学校給食、福祉向け給食を受託。2014年豊田通商による資本参加、2020年完全子会社化。「食を通じて人、社会から信頼され豊かな社会づくりに貢献する価値創造企業を目指す」を企業理念に日々挑戦を続けている。現在は既存の給食サービスのレベル向上に加え、人手不足対応の自社製造完全調理済み食材「クックパック」の拡販にも注力している。
本社所在地:東京都港区虎ノ門3-22-1 虎ノ門桜ビル5F
Webサイトアドレス:https://fujisg.co.jp/
バスケットボールよりキツかった中学時代の食体験
Q1. 社長の経歴や人となりについて教えてください
久田社長 小学生の時は野球少年で、中学校に入っても野球をやろうと思っていました。中学校に入り、同級生と悪さをした際に、担任の先生に職員室に正座をさせられたのですが、その先生に「お前らバスケ部入りだな」と自分の意思と関係なく入部を告げられました(笑)。これがバスケットボール人生の始まりです。
その先生は自分の車に「WE LOVE BASKETBALL」と大きなペイントを入れてしまうほどの熱の入れようでバスケットボール界では有名、のちに日本人初のNBAプレーヤーである田臥選手を指導した方です。中学校入学当時の私は、体が細くて、触ったら折れるんじゃないか? といった華奢な体型でした。この中学時代の練習が一番キツく、合宿に行くと当時は練習中に水を飲むな、という時代に、午前、午後各3時間ぐらいでヘトヘトになっても続けられるなど、とにかく練習もメチャクチャ厳しいものでした。
その後進学した高校は、漫画『スラムダンク』の海南大附属のモデルにもなった学校で、高校時代はほとんど負けることはなく、神奈川県では負け知らずでした。全国大会ベスト8、国体3位など、自慢ではありませんが、個人的には高校三年時は神奈川県の最優秀選手にもなりました。その後も続けた東京の大学は今も強豪校と呼ばれています。
大学から就職する時に名古屋が本社の豊田通商に入社しました。私は神奈川出身で大学も東京ですが、合宿などを名古屋でやるケースが多くありました。その時感じていたのが、「赤だし」とか「味噌煮込み」とか関東にない食事がしょっぱくて「自分には合わない土地だな」と感じていました。なので僕自身は名古屋の会社に入るとは夢にも思ってなかったのです。ただ当時、豊田通商のバスケットボール部の監督だった人から、強く勧誘されて「4年で東京に戻してやるから」と言われ根負けし入社しました。結局入社して13年間名古屋にいました(笑)。
豊田通商でも実業団(現 Bリーグのファイティングイーグルス名古屋の前身)でプレイしました。1992年にバスケットボール部を引退し、豊田通商で通算33年、そして2018年に豊田通商グループのフジ産業の社長に就任しました。
豊田通商では入社から4年ほど管理部門で取引先の信用状態を調査する部署に配属されました。商社の取引先は中小企業から大企業まで多岐に渡ります。取引先各社の信用状態を確認し、「いくらまで売っていいのか?」「どのような取引条件、契約で取引を行えば良いのか?」などを判断していく部署で、この時の経験は私の会社人生においての基本になっています。
その後は建設資材の輸出入、国内販売や不動産開発事業に長く携わりました。東京都内で私が開発を担当した地下鉄駅直結の超高層マンションは中古となった今でも販売時より高い価格で取引されており、自慢の一つです。
不動産開発では海外案件も担当し、2年ほどロシアにも長期出張し、帰国後生活関連部門の企画部長、2013年から5年バンコクに駐在し、食料及び生活関連部門のアジア地域の統括を務め、帰国後にフジ産業に着任しました。
仕事でもいろいろと大変な思いはしてきましたが、中学時代から社会人まで続けてきたバスケットボールで、一番キツかった思い出が中学時代の練習です。
しかし、この中学時代の練習よりも辛かったのが、中学時代の合宿時の昼食の「弁当」なんです。合宿の際には決まって弁当が出されて「これを全部食べろ」と言われるのですが、この弁当が本当に冷たくてまずかったのです。当時は今みたいにスポーツ栄養といったものもなく、痩せていた自分は「とにかく食ベろ」と言われていました。この冷たくてまずい弁当を食べることが辛くてキツかったことは今も忘れられません。
このような体験から、やはり食事を提供する側は、食べる側が美味しく、ましてやその食べ物を嫌いになることがないように食べてもらいたい、という気持ちがものすごくあります。
今の給食は僕らが食べていた頃のものとは全然違って、ものすごく美味しいですし、見た目も全然違いますが、学校での弁当が嫌いになった僕の二の舞のようなことをさせたくないという思いがあって、社内の学校給食の担当部門には「子どもたちの楽しみを、絶対に奪ってはいけないよ」という話をしています。社員食堂の担当者には「毎日の食事が活力になる」と思って頂けるように、毎日がイベントのつもりで業務にあたるよう指導しています。
企業内に向けて情報発信する社員食堂
Q2. 御社の特徴を教えてください
久田社長 給食会社は、そのクライアント企業の方針や理念など、担当者が何をやりたいのかというところを食堂で具現化するお手伝いをする会社です。当社ではその具現化のために「こんなことができますよ」という提案をしています。
一例をご紹介しますと、当社の親会社は、トヨタ自動車を中心とするトヨタグループの一員です。トヨタグループでは、「適正体重」「朝食」「飲酒」「完食」「禁煙」「運動」「睡眠」「ストレス」という8つの健康習慣改善を職場で取り組む「健康チャレンジ8」という健康づくり活動を行なっています。当社でもこの取り組みのテーマに沿ったメニューを考えることで、従業員の人たちに「健康チャレンジ8」への後押しをして、マインドに刻み込んでもらうお手伝いをしています。
やはり従業員の健康面についてはどの会社も気にされています。従業員の健康習慣を改善することで未病対策に繋がりますし、会社としても収益に関わる健康保険料のコスト削減となってきますので、そのお手伝いとなるよう、社員食堂でもヘルシーメニューの提供を行なっています。
実際にヘルシーメニューはとても人気が高く「健康チャレンジ8特集」の時は通常よりも集客がありましたので、単に低カロリー食といった提供ではなく、目的を定めた上でそのメニューを定番化していくことが、一層会社にとっても喜ばれると思います。
もう一つ親会社の例を紹介します。豊田通商ではアフリカビジネスに力を入れていることもあり、社員食堂ではアフリカのいろんな地域の写真を展示し、チュニジア料理やケニア産、タンザニア産のコーヒーを提供しています。料理は当社の社員がチュニジア大使館のシェフに教わって提供するといった「アフリカウイーク」を実施するなど、その会社の取り組みとリンクしたイベントを行なっています。
会社として力を入れているプロジェクトがあるでしょうから、それに関連した情報を社員食堂で発信するということを行なっています。部署が違うと同じ会社内でも互いに何をしているのか知らない、ということも当たり前になってしまいがちですが、各部署が取り組んでいる情報を社員食堂で発信してもらい、それを見た人が「それなら、こんなことができないかな」「うちの部署も関われそう」ということでその部署にコンタクトをとっていく、といった社内の繋がりを生むことができます。
以上のようなことは、クライアントの方針によってできる・できないはありますが、そもそも社員食堂でこんなことができる、ということを知らないクライアントの担当者もいらっしゃいます。各クライアントの要望や方向性にもよりますが、それぞれの会社の特性を踏まえて、色々なビジネスに繋がるようなイベントをしていかなければいけないと思っています。
今までの社員食堂でのイベントはどちらかと言うと、「◯◯の有名店フェア」といったものが多かったと思いますが、「こんなことができますが、やってみませんか?」といった提案を今後も力を入れて取り組んでいきたいと思います。それにプラスして会社が求めている方向性や会社が発信したい情報に沿ったメニューを提供していくことを行なっています。
食べること以外にも、化学変化を生む場所へ
Q3. ウイズコロナ、アフターコロナにおける社員食堂のメリットについて教えてください
久田社長 社員食堂のメリットとして、まず挙げられるのが「安心・安全」というキーワードです。それはコロナ禍でも同様で、外食の場合は水知らずの、不特定多数の人たちと近くで食べるというリスクがあります。一方、社員食堂では利用者もほとんど社員だけですし、調理する人の衛生管理や食材の安全性も含めて安心・安全に利用できます。
当社でも社員はもちろん、家族、同居人等の体調管理を徹底し、異常があれば出社停止とし、本社、支店、事業所にPCR検査キット、抗原検査キットを常備し罹患状況を確認するなど利用者が安心して食事をすることができる環境を整えています。
味についてももちろん、栄養面も栄養バランスが偏らないよう配慮されていますし、外に食べにいくことを考えると休憩時間が長く使えます。コンビニ弁当や仕出し弁当よりも、やはり目の前で調理されて食べるものは従業員の方にも喜ばれます。
メニューについてもアンケートや給食会議等を通じて従業員の方の要望を取り入れて提供したり、自社の名物料理として育て上げていくことも可能です。
当社にて複数の工場の食堂を受託させて頂いているお客様へは、それぞれの工場の人気メニューを他の工場に提供するイベントなども行なっており、コロナ禍で実際に行くことが出来なくとも他の工場ではこのような料理が人気なのかと知ることで、少しでも横のつながりが出来るようなお手伝いもさせて頂いています。
他に最近のキーワードとしては「SDGs」があります。例えば「毎週木曜日は代替ミートやサステナブルシーフードのメニューを提供する」といったことですが、SDGsの取り組みでただ献立を出すだけではなくて、やはりSDGsについて社員が自分で考える機会を提供するということが必要と言えるでしょう。
社員食堂をお持ちでない会社の方の気がつきにくい食事以外のメリットとして、企業内の情報発信や人材交流なども挙げられます。
他にもメリットとしては、企業のイメージ向上に繋がりやすいということがあります。社員食堂があると「この会社は働きやすそうだ」と感じる人は多いですし、「こんな社食のある会社で働きたい」というように、リクルーティングにも活用できる施設でもあります。採用時や内定決定時に社員食堂に案内すると「この会社は社員のことをしっかり考えている」ということに繋がってきますので、働き手にとっても「そういった魅力的な会社で働きたい」と人気が出てくることがあります。
安全、健康、リラクゼーション、情報発信、リクルーティング、従業員に対する会社の思い、そういったものを伝える意味でも社員食堂にはメリットがあると思います。社員食堂は、その場所で情報を発信して、そこに共感する社員が出てきて、部署の垣根を超えて交流が始まり、新たな発想が生まれるといった化学変化を生み出す場所なのです。
各企業向けにプラスアルファの取り組みが広がってくるでしょう
Q4. 2023年の社員食堂業界の展望について教えてください
久田社長 もう少しすれば、新型コロナウイルスも第5類という扱いになってくるようですし、飲み薬などが出てくれば、扱いが変化してくるでしょう。そうなると在宅ワークを続けている企業もどんどん出社制限を無くしていくでしょう。やはり在宅ワークばかりで、顔を合わせずに仕事をしていると、「発想が広がらない」とか「新規顧客が獲得しづらい」などといったデメリットが顕著になってきています。
実際に「やはり出社する機会はどんどん作らなきゃいけないね」という声を聞くことが増えています。その中で社員食堂は重要な役割を期待されておりますので、「社員同士の出会い」や「社員に向けて情報を発信する機会」といった取り組みを実施していく企業が増えるでしょう。
また、社員食堂を通じて社会貢献や従業員の健康増進を図る取り組みも更に強くなっていくものと考えています。
NPO団体などを通じて開発途上国の飢餓と先進国の肥満や生活習慣病解消の取り組みへの積極的な参加、「フェアトレード商品」「トレーサビリティ」のしっかりとした食材の使用など社員食堂を通じて社会に貢献していくことで企業価値の向上にも繋がります。
デジタルサイネージを利用することで現物サンプルの廃棄量を削減し、アプリを活用した事前発注等でフードロスの削減にも貢献していけます。デジタルアンケートの活用や摂取カロリー情報、健康状態のチェック等もDXの推進で行うことで従業員の健康増進の後押しも出来ます。
但し、社員食堂は会社施設の一部に過ぎません。更に食事のサービスというものは社員食堂全体のコンセプトの中の ひとつにしか過ぎません。コストと関わってくることから、社員食堂で提供できるメニューはどの給食会社であっても似通ってくると思います。会社全体の方針があってそのひとつとして、社員食堂にプラスアルファの取り組みが広がってくる。そこは給食会社だけでなく企業側も一緒になって考える必要があると思います。
そんな企業価値の向上の為に、社員食堂が無い企業様も是非社員食堂の良さを今一度考えてみて頂きたいと思いますし、当社も良きパートナーとしていろいろな取り組みを一緒に考え、ご提供出来る企業になっていきたいと考えています。
-貴重なお話をありがとうございました。
(聞き手/社食ドットコム編集部)
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