昨今は新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、出社制限やテレワークの採用が進み、社員食堂そのものの必要性すら問われる時代となっています。しかし不特定多数との接触がないことや栄養バランスの良さ、社員同士のコミュニケーションの場となるなど社員食堂のメリットについてはあまり語られることがなく、社員食堂を有していない企業の方々には、その実情が届いていないことが懸念されます。
このような中、社食ドットコムでは、社員食堂運営会社のトップの方に「社員食堂の良さ」を発信していただき、社員食堂の必要性を社員食堂を有していない企業の方々に理解していただき、社員食堂の市場拡大につなげることが業界全体のメリットに繋がると考えています。
そこで、社員食堂運営業界にて長らく活躍されている社員食堂運営会社のトップの方を直撃取材。「トップが語る、2023年の社員食堂業界」をテーマとして、社員食堂のメリットはもちろん、社長の人となりから今後の社員食堂がどのようになっていくのか? などについてお話をうかがいました。
今回は、株式会社LEOCの森井 秀和社長です。
【プロフィール】
森井 秀和(もりい・ひでかず)
株式会社LEOC 代表取締役社長COO
1974年10月10日生まれ。北海道文教大学短期大学部食物栄養学科を卒業後、2003年にソデッソジャパン株式会社(現・株式会社LEOC)に入社。その後同社取締役専務執行役員、フードサービス事業カンパニー長、代表取締役副社長COOなどを経て、2021年に同社代表取締役社長COOへ就任。現在に至る。
【会社概要】
株式会社LEOC
株式会社LEOCは、全国2,700ヶ所以上の社員食堂・病院・介護施設・保育園・アスリート施設など、あらゆる年代のお客様に対して、日常の食から心身の豊かな健康を創造するコントラクトフードサービス企業です。「お客様に喜びと感動を パートナーに成長と幸福を 社会に貢献を」との理念のもと、一人ひとりをどこまでも大切にする企業として、人から始まる持続可能な社会の発展に貢献してまいります。
本社所在地:東京都千代田区大手町1-1-3 大手センタービル17階
Webサイトアドレス:https://www.leoc-j.com/
小学5年生の時に知った、ご飯を食べてもらう喜び
Q1. 社長の経歴や人となりについて教えてください
株式会社LEOC 森井 秀和 代表取締役社長COO(以下 森井社長)
子どもの頃から料理を作るのは好きでした。小学5年生の時に夏休みの自由研究で、友人と自宅でカレーを作ったんです。その時の達成感や満足感はよく覚えています。もしかしたらその時の嬉しさが、今に続いているのかもしれません。
成人後は調理師として北海道のホテルで働いていたのですが、ある時祖母が入院することになりました。その時に「病院では栄養士が中心になって食事を作っている」ということを知り、祖母があまり病院食を食べられなかったこともあって、26歳から短大で栄養士資格の取得を目指しました。その時に縁あって声をかけていただいたのが、現在のLEOCです。
短大を卒業した28歳の時に入社し、当初は北海道エリアの病院などの厨房業務全般を担当しました。病院では嚥下(飲み込み)ができない患者さんのために、料理を細かく刻んだ「刻み食」を提供することがあります。一方、患者さんの病態はさまざまで、病気であっても味覚はしっかりしている方も多くいらっしゃいます。私が新人の頃、その刻み食を提供した時に患者さんから「美味しくない」というクレームが入ったんですね。
どんな状況であっても、美味しいものを美味しく食べたいのは皆さん同じです。「やっぱり食事は美味しくないと意味がないな」と感じて、その刻み食を改善していったのが、私の仕事の原体験です。当社は効率ばかり追うのではなく、手間をかけても良いものを作るという会社なので、自分の食に対する思いと合致していましたね。
その後は、社歴のほとんどを給食事業所のマネジメントを行うポジションで過ごしてきました。2020年に取締役専務執行役員、フードサービス事業カンパニー長、代表取締役副社長COOを経て、2021年に代表取締役社長COOへ就任し、今に至ります。
幅広い業態のノウハウを活かす
Q2. 御社の特徴を教えてください
森井社長 LEOCは、創業以来、コントラクトフードサービスを行なっており、給食事業においては日本各地に2,700ヵ所以上の施設(社員食堂、病院、介護施設、保育園、アスリート施設等)において日々食事を提供しています。このクライアントを大きく分けると、社員食堂・病院関係・介護施設の比率がそれぞれほぼ3割ずつとなります。このように、3本柱で事業を安定的に行なっていることが当社の大きな特徴です。子どもから高齢者まで幅広いお客様をターゲットとしていますので、さまざまな経験を蓄積し、それらを別分野に活かすシナジー効果を生み出すことができています。
当社の事業において特にこだわっている点は、「現地調理」「オーダーメイド型の受託」「働く人のモチベーションを大切にする」という3つです。
まず1点目として、当社には「温かい料理をいつでも美味しく召し上がっていただきたい」という思いがあります。そのためにあえてセントラルキッチンを持たず、現地調理にこだわってきました。また、当社独自のノウハウによる「科学的根拠に基づいた調理」も大きな特徴です。本社に専用のテストキッチンを構え、「温度と時間」を軸に、オペレーションと美味しさを高いレベルで両立する調理法を日々研究しています。
そして2点目として、先ほどお伝えしたように当社は非常に多様な業種で経験を蓄積してきました。そのため、お客様の施設規模やご予算などに合わせた、オーダーメイドのサービスを提供することが可能です。近年ではSDGsを軸にした社食運営のご相談を多数いただいておりますが、当社は代替タンパク質をメインに使用したサステナブルフード「L’thical」(エルシカル)やプラントベースの食事提供、「生産地への貢献」をテーマにしたオリジナルブレンドコーヒー「The Bridge」(ザ・ブリッジ)の開発など、食を通じたサステナビリティに非常に注力してきました。共に社会課題を解決するパートナーとして、幅広い提案をさせていただいています。
最後に3点目の「働く人のモチベーションを大切にする」という点ですが、当社は新人・新任研修や調理・ホスピタリティ研修、本部スタッフ研修など、社員に対してさまざまなフォロー体制を敷いています。例えば「社内トップシェフアカデミー」という取り組みでは、腕に自信のある調理師を全国から選出し、メニュー開発や技術の共有を定期的に行なっています。個々のさらなるスキルアップというメリットはもちろんですが、「自分が一番だ!」というくらい自信を持った調理師たちがコミュニケーションを取り合うことで、「ライバルに負けずにもっと頑張ろう」というモチベーションにつながっています。
定期的に開催している料理コンテストでは、入賞すれば全国の社員食堂で提供され、LEOCのトップシェフとして制服も変わります。ここから本部の指導者に昇格することもできますので、さまざまなキャリアを積める道が開かれています。調理師だけでなく、社員食堂の担当栄養士が監修したメニューを全国の社員食堂で提供することもあります。こうした取り組みも、一人ひとりのモチベーションアップに繋がればとの思いからです。
ここで紹介したものはごく一部ですが、LEOCは多彩な人材が生きがいを持って長く働けるよう、さまざまな取り組みを行なっています。
社員食堂にも求められる“家族団欒”的コミュニケーション
Q3. ウイズコロナ、アフターコロナにおける社員食堂のメリットについて教えてください
森井社長 新型コロナウイルスは、「出社して対面で仕事をする」という従来の業務モデルに大きな転換のきっかけをもたらしました。一方で、従来の対面業務が持っていた価値に気づくことができたのも、非常にまれな経験だったと思います。テレワークの中で社員同士のコミュニケーションがうまく取れず、業務に支障をもたらしたというエピソードをよく聞きました。コロナ禍を経験したことで、コミュニケーションスペースとしての社員食堂の価値はむしろ高まったのではないかと考えています。事実、そうした環境を作りたいという当社へのご要望は数多く届いています。
結局、黙って一人で食べるのと、みんなで楽しく食べるのとでは全然違うじゃないですか。昔から家族団欒というものがあるように、食事ってコミュニケーションを取る時間でもあるんですよね。そこが今再び、社員食堂にも求められてきているということだと思います。
コロナ前から大きなトピックであった「社員の健康管理」という社員食堂の機能も、コロナ禍を経験したことでさらに重要性を増しています。「コロナ太り」のように、外食を控えつつ昼食を自分でまかなわなければならない不便さは、誰もが体感したところだと思います。その上で栄養バランスに気を遣っていくのも、実は非常に難しい。その点、社員食堂には専門の栄養士がいて、カロリーや栄養に配慮したメニューが安価に提供されます。その便利さは、コロナ禍を経験したからこそいっそう感じられる部分ではないでしょうか。
そして社員食堂の「SDGsへの取り組みを発信する場」という機能も、コロナ前と変わらず重要なメリットと考えています。コロナ禍によって世界的にSDGsの進捗が停滞するのではないかという予測もありましたが、実際は衛生観念や環境問題の改善、テレワークをはじめとするオンラインネットワークの普及など、前進した部分もありました。その上で企業としてSDGsの推進を発信し続けるために、食・健康・環境の分野と常に接している社員食堂は、今なお取り組みやすいセクションの一つと言えます。
「食」を支える取り組みが必要となってくる
Q4. 2023年の社員食堂業界の展望について教えてください
森井社長 長年の課題ではありますが、まず給食業界全体の職場環境の改善が急務です。食事を提供する専門職(管理栄養士・栄養士・調理師)やサプラー(※) の皆様、生産者や取引先といったパートナーの皆様がいなければ、私たちの仕事は成り立ちません。日本の労働人口が減少している中、海外人財の育成と活躍も非常に大切です。
食に関わる業界全体を意識した取り組みで、産業全体を発展させなければ生き残れないのが現在の給食業界と捉えています。そのためには、人財のスキルや料理のクオリティ、ホスピタリティの追求など、あらゆる分野でエキスパートを育成することが重要になります。
現在では考えられませんが、私が新卒の頃は「休みも残業代もいらないから、仕事をする」ことが美学の時代でした。もちろん今の若い世代に対して、前時代的な考えを押し付けるようなことをしたくありません。この時代に寄り添い、従業員に寄り添う柔軟性が必要だからです。
給食業界は、働き方の変化に呼応するかのように職場環境が変化している反面、生産性をあげながらコストを抑えて運営をしていますが、事業の大部分を人の労働力に頼る「労働集約型産業」です。そのため働く人の職場環境をより良いものに改善することが求められてきましたが、今後もその傾向はいっそう強くなるでしょう。
(※サプラー=パート社員のこと。“満足を生み出す人”という意味が込められたLEOCの造語)
加えて、代替食品の進化もいっそう加速すると考えています。これまでは代替食品というと、どこか美味しさを我慢した、文字通り肉や魚の代用品に過ぎないものでした。しかし世界的に見れば、どの食材も味わいや食感が大きく進歩しています。当社としても「L’thical」をローンチして1年半ほどになりますが、開発時に掲げた「エシカルフードと思えないくらい美味しい」というテーマをさらに追求していきたいと思っています。
代替食品の改良と並行して、LEOCのグループ企業では2023年から一次産業である酪農事業を本格始動します。自分たちだけでなく一次産業に目を向けなければ、日本の食そのものが倒れていってしまうことの危惧があるからです。今の酪農事業は人手が不足していて、後継者も極めて少ない。 牛乳だけでなく他の作物も含めて一次産業をしっかりやっていくことで、生産から消費の循環をさせようというのが今後の大きな取り組みの一つとなってきます。
短期的に見れば「食堂運営に必要なものさえあればいい」ということになってしまうかもしれませんが、当社はよりグローバルな規模で、生産から消費までのサプライチェーンをもう一度見直していきたいと思っています。だからこういったところから取り組んでいかないといけません。ここが崩れてしまうと、食に関わるビジネスそのものが壊滅してしまう恐れがあるからです。
コロナ禍で、社員食堂に関わるビジネスは縮小していくという予測もありました。しかし私たちは、より大きな枠組みでビジネスを再構築するチャンスと捉えています。24,901名の社員と共に、今一度日本の食をしっかりと支えていきたいと思っています。
-貴重なお話をありがとうございました。
(聞き手/社食ドットコム編集部)
会社名 | 株式会社LEOC |
所在地 | 東京都千代田区大手町1-1-3 大手センタービル17階 |
公式WEBサイト | https://www.leoc-j.com/ |