来年で創業85年、関東給食界の草分けであるニッコクトラスト。「老舗であることは誇りでもありながら、同時に旧態依然とした部分との戦いでもある」と語り、グループの「機能」をフル活用しながら、給食を単なる食事でなく、社会を支える「食のインフラ」としてより発展させる必要性を説くのは同社の高杉篤陽社長。
社食業界全体が発展するためには、社員食堂が労働集約型であることに甘えず、業界全体での協力体制の必要性も感じているという高杉社長が、業界への提言を込めて語ります。
【プロフィール】
高杉 篤陽(たかすぎ・あつはる)
1964年4月14日生まれ。1988年3月帝京大学文学部卒業後、同年日本国民食株式会社(現・株式会社ニッコクトラスト)に入社。
営業店勤務を経て、総務人事部長、西日本支社長などを歴任。2011年株式会社ニッコクホールディングス執行役員総務人事部長、2015年株式会社ニッコクトラスト取締役執行役員に就任。
その後、常務取締役、専務取締役を経て、2025年5月代表取締役社長に就任。
創業の精神である「理想の給食」を原点に、経営理念「つつむ心で、応えるを超える」を掲げ、100年企業を見据えた次世代の給食事業を推進している。
【会社概要】
株式会社ニッコクトラスト
ニッコクトラストは、1941年創業の老舗給食企業。企業や官公庁の社員食堂、学校、病院、高齢者施設など、全国900以上の拠点で「食のインフラ」を担っています。約600名の栄養士・管理栄養士と1400名の調理師が在籍し、安心・安全で健康的な食事を提供。
近年はM&Aを積極的に行い、外食・食品製造・販売など多様な機能を持つグループ会社と連携しながら、コントラクトフードサービスの枠を超えた総合的な「食と健康のプランナー」として事業領域を拡大しています。
また、スポーツ支援を通じた社会貢献にも注力。サッカー、フェンシング、ゴルフなどの競技で、選手への栄養指導や食生活サポートを実施し、アスリートの健康とパフォーマンス向上を支えています。
さらに、給食会社としていち早くヴィーガンメニューの開発・導入に取り組むなど、多様な食文化やライフスタイルへの対応も強化。健康・環境・文化を結ぶ“食の未来企業”として、持続可能な社会づくりに貢献しています。
本社所在地:東京都江東区新木場1-18-6 新木場センタービル
Webサイトアドレス:https://www.nikkokutrust.com/
Q1. 社長の経歴やご自身について教えてください
高杉 篤陽社長(以下高杉社長):私は東京の府中育ちで、親が栄養士でしたが、まさか自分が飲食の道に進むなんて、当時はこれっぽっちも考えてなかったんですよ。バブル真っ只中の大学卒業時、目指していたのは「海外で働く」ことでした。就職活動もろくにしてなくて、そんなとき、母親の紹介で面接に行ったのが、今のニッコクトラスト(当時は日本国民食)です。1988(昭和63)年入社だから、もう37年前ですね。
食の会社で働くつもりはありませんでしたが、学生時代は、当時はまだ珍しかった回転寿のお店で4年間働いていました。おかげで入社したとき、会社の中では「寿司が握れる新卒」というキャッチフレーズがついていました(笑)。新入社員の歓迎会でも自分で寿司を握って振る舞うなんてこともありました。今でも家族にはたまに握ることもあります。
入社後は調理師さんと一緒に厨房で調理をしながら、少しずつマネジメントを教えてもらうという、現場叩き上げのスタートでした。4年目には埼玉で営業責任者、要は店長を任されて、パートさんや調理師さんと一緒に店を運営する経験を積んでいきました。30歳手前には20店舗をまとめるエリア責任者になっていました。責任と仲間が増えるうちに、だんだんと「ここで自分を磨こう」って気持ちに変わっていったんです。
そんな中で、入社から10年、33歳のときに大きな転機が訪れます。私は会社の中でもちょっとアバンギャルド、つまり生意気なタイプだったんでしょうね。当時の会社の労働組合(企業内組合)に、「活きがいいから、ちょっと正すためにもちょうどいいだろう」って感じで、中央執行委員に誘われたんです。組合っていうのは、当時の私には全く未知の組織でしたが、経営にモノが言えるっていうのは衝撃的で、会社と組合の両方の立場で考えるという、貴重な経験をさせてもらいました。
結果的に16年間、組合の執行委員を務め、途中で8年間は委員長として、会社のトップと労働条件の交渉なんかもさせていただきました。組合員だけで2000人以上いた会社で、まさかトップになるとは夢にも思ってなかったですね。ここで得たリーダーシップや、組織をまとめる経験が、今の自分の血肉になっています。
その後、50歳を前にして会社に戻り、総務人事部の部長、執行役員へと昇進しました。組合委員長をやっていたおかげで、社員の顔と名前が一致する人事の仕事は、ものすごく活きました。でも、総務人事部長になったとき、営業経験がろくにないまま役職が上がっていくことに、不安を感じたんです。そんな時、西日本支社長の後任が見つからないという課題があり、本来は選ぶ側の立場だった私が、当時の社長に「私に行かせていただけませんか」と、自分から手を挙げました。不安もありましたが、組合で多くの社員と知り合っていたこともあり、大阪を拠点に名古屋から九州までのエリアを統括する西日本支社長として、営業を学び、組織をまとめていきました。
その後、西日本での成果が認められて東京に戻り、営業担当常務、専務とスピード昇格。その2年後に、8代目社長として今に至るという、ちょっと変わった経歴を歩んできました。
振り返ると、食に興味がなかった私が、母親の縁をきっかけに、予想もしなかった道のりの中で、この会社と運命共同体になっていった、と言えます。
Q2. 御社の特徴について教えてください
高杉社長:弊社は、コントラクトフードサービス業界の中でも、少しユニークな特徴を持つ会社だと思います。それは、機能的なグループ企業を多く抱えているということです。創業当時から続く会社もありますが、近年はM&Aなどを通じて新たに仲間となった企業も増えています。これは、社員食堂や病院・学校給食といった従来型の事業だけでは、お客様の多様なニーズに応えきれない時代になってきたからです。
人手不足や資材価格の高騰など、業界を取り巻く環境は厳しさを増しています。そうした中で、私たちは「完調品(完全に調理された商品)」の開発や供給を得意とする会社、あるいは外食やデリといった新しい業態の会社をグループに迎え入れてきました。グループの総合力で給食事業を支える――これがニッコクトラストの大きな強みのひとつです。
そして、もう一つ誇りにしているのは、来年で創業85年を迎える老舗企業であるということです。関東地区のコントラクトフードサービスの草分けとして始まり、同業他社の方々からも「ニッコクトラストさんに制度やノウハウを教わった」と言われることが少なくありません。長い歴史の中で築いてきた信頼と実績は、社員一人ひとりにとっても大きな誇りです。
ただ、私自身38年間この会社にいて強く感じているのは、「老舗ゆえの慣習」も少なからず残っているということです。長年培ってきた「安心・安全・誠実な調理」という良い文化は守り抜きつつも、営業店のサポート体制やオペレーションは時代に合った形に変えていかなければなりません。それが、今の私に与えられた使命だと感じています。
給食事業というのは、一般の外食やお弁当、スーパーのお惣菜などに比べると、表に出る機会が少なく、どうしても“縁の下の力持ち”のような存在です。ですが、私たちは社員や利用者の皆さまに安全で栄養ある食事をお届けし、毎日の活力を生み出す「食のインフラ」を担っています。
この“食で人を支える仕事”こそ、私たちの社会的使命であり、創業以来掲げている社是「理想の給食」そのものです。つまり、「一人でも多くの方に、安心しておいしい食事を召し上がっていただく」――その想いが、84年続く私たちの礎なのです。
また、経営の基本には、会社が大切にしている4つの信条があります。それが「選ばれ続ける」「儲ける」「人を育てる」「将来を見据える」という考え方です。
- 「選ばれ続ける」とは、お客様や利用者の方々にとって“明日も食べたい”と思っていただける存在であり続けること。
- 「儲ける」は、単なる利益追求ではなく、持続可能な経営を通じて社員と社会を豊かにしていくということ。
- 「人を育てる」は、社員一人ひとりの成長が会社の成長につながるという信念であり、次代を担う人材を育てることに直結しています。
- 「将来を見据える」は、変化を恐れず、未来の社会に必要とされる企業であり続けるという覚悟です。
この4つの信条を軸に、私たちはこれからもグループの総合力を生かしながら、「日本の食のインフラを支える企業」として進化を続けていきます。社員一人ひとりが“つつむ心”でお客様と利用者の皆さまに寄り添い、創業の精神とともに、次の100年へ歩みを進めていきたいと思っています。


Q3. 社食業界の今後について、どのようにお考えですか?
高杉社長:給食業界全体が今、本当に危機的な状況にあると思っています。一番の悩みは、どこの会社も一緒で、やっぱり人手の確保です。この業界は、どうしても労働集約型産業であるがゆえに、人がいなければ回らない。でも、私はこの「労働集約型だから仕方ない」という言葉に、業界全体が甘えすぎてはいけないと強く思っています。
これから労働人口は間違いなく減っていきます。人は大切、重要なんですけど、人に依存しすぎ続けるスタイルをどこかで断ち切らないと、業界の繁栄や継続は本当に難しくなる。これはもう、待ったなしの課題です。ではどうするか。もちろん、機械化も必要です。そのためには私たちだけではなく、機械メーカーさんにもっと期待したいところです。
そして、食に関わる以上、美味しさは絶対条件です。安全・安心は、もう当たり前。その上で、いかに人手をかけずに、美味しくて安全なものを届け続けるか。そのために、メーカーさんと組んだり、自社で開発したりして、機能性食品のようなものを賢く活用していく時代が来ています。
もう一つ大事なのは、「食に興味を持ってもらう」こと。特に社員食堂は、ほかに選択肢がたくさんある中で、あえて選んでもらわないといけない。来てワクワクする、活力が湧くようなメニュー、サービス、演出が求められています。単なる福利厚生の場じゃなく、社員が活力を生み出すツールとして選ばれる食堂にしないと、淘汰されてしまうでしょう。
今、社員食堂の価値は二極化しています。人材確保の切り札として食堂を重視する企業もあれば、外注のお弁当などに切り替えてしまう企業もある。私たちは「食のインフラ」という優位性をしっかりとアピールして、この業界の必要性を企業側に訴え続けていかないといけない。
そして、最も大きな壁が「価格」の問題です。外食や市販のお弁当はどんどん値上がりして、その価値が認められつつあります。でも、なぜか給食という業態は、「安い」というイメージをなかなか払拭できない。ここに、すごくもどかしさを感じています。毎日違うメニューで、栄養価もコントロールされている。手間がかかるビジネスなのに、価格転嫁が非常に難しい。一方で、食材の価格は平等に上がっていく。これでは、経営は大変になってくるのは当然です。
だから、業界全体で動く必要があると思っています。食材を安全かつ安定的に確保するために協力し合うとか、業界としての価格水準アップに踏み出すとか。一社だけの努力では限界がある時代です。各社がそれぞれに頑張ることも大切ですが、どこかでその力を集約して、この難しい経営環境を乗り越えていかなければならない。そうすることで、給食業界の未来が開けてくると信じています。
-貴重なお話をありがとうございました。
(聞き手/社食ドットコム編集部)
| 会社名 | 株式会社ニッコクトラスト |
| 所在地 | 東京都江東区新木場1-18-6新木場センタービル |
| 公式WEBサイト | https://www.nikkokutrust.com/ |






















