愛知県を地盤とする給食会社、メーキュー株式会社の山本社長。創業家の長男として生まれながらも、東京の大学卒業後はあえて製薬会社で「外の世界」を経験。その後メーキューに入社するも、保守的な会社体質に危機感を抱き、自ら営業・企画部門を牽引しました。仕事への葛藤を乗り越え、給食業の意義に腹落ちしたことが転機となり、年商を短期間で84億円まで急伸。地域密着のドミナント戦略と独自のサプライチェーンを強みに、給食業界の古い定義を塗り替え、変革をリードする42歳の若き経営者の軌跡と社員食堂業界の展望について語っていただきました。
【プロフィール】
山本 貴廣(やまもと・たかひろ)
青山学院大学国際政治経済学部卒業後、興和㈱に入社。医薬品営業に従事。2010年にメーキュー株式会社に入社後、2013年より取締役営業企画部長として、新規取引先拡大のための営業開発部門と営業企画部門を管掌。売上を67億から84億へと伸長させる。2017年常務取締役、2019年専務取締役。2023年7月より代表取締役社長に就任、グループ会社であるナゴヤフード株式会社の代表取締役社長も兼務し、グループの成長を推進する。

【会社概要】
メーキュー株式会社
1960年の創業以来、愛知県を中心に、社員食堂をはじめ、寮・学校・病院・障がい者施設・有料老人ホ
ーム・老人福祉施設・保育園など、さまざまな施設へ食事を提供している委託給食会社。
グループ会社と連携し、食材の調達からこだわり抜いた食をお届けしている。給食を単なる食事ではな
く「人をモチベートするもの」と捉えてお客様のニーズに合わせた献立の企画・開発にも取り組んでお
り、創業当初からの理念である「誠実・刷新」を元に、毎日安全・安心で質の高いフードサービスを提
供している。
本社所在地:愛知県名古屋市守山区下志段味3丁目2302番地
Webサイトアドレス:https://www.me-kyu.com/
Q1. 社長の経歴やご自身について教えてください
山本 貴廣社長(以下山本社長):1983年に愛知県名古屋市で生まれた私は、現在42歳になります。高校卒業までは名古屋で過ごし、その後、東京の青山学院大学に進学しました。卒業後、すぐに家業を継ぐことはせず、一度は製薬会社の営業職として社会人のキャリアをスタートさせました。そこで約4年間、「外の世界」での経験を積んだ後、会社が創業50周年の節目を迎えるタイミングで、父である当時の社長から声がかかり、メーキューに入社することになりました。
長男であること、そして幼少期から創業者の祖父母と同居していたこともあり、将来的に会社を継ぐという暗黙のプレッシャーは感じて育ちました。しかし、父(現会長)は家で仕事の話を一切しない人だったため、家業が給食会社であることは知っていても、具体的な事業内容や仕事の詳細はまったく知らずに成長しました。
自身のキャリアを意識し始めたのは、大学の就職活動時です。その際、「いきなり家業に入るのではなく、別の業界で経験を積むべき」という助言を受け、製薬会社への就職を選びました。この「外の世界」での経験は、後に家業に戻った際に大きな糧となります。また、大学時代には飲食店における厨房やホールでの仕事、さらには調理道具を買いに合羽橋へ行くほどアルバイトに熱中し、飲食の現場経験も積みました。この時の経験も、現在の事業に役立っていると感じています。
メーキューに入社後、私はまず全業態を網羅的に学ぶことから始めました。社食からスタートしたメーキューは、社食以外にも病院、福祉施設、学校と多岐にわたる事業を展開しています。そのため研修という名目で約1年半かけてこれらの現場を回り、その後、前職の経験を活かして新規の営業開発を担当しました。
転機が訪れたのは30歳の時です。当時、社内の営業部長と企画部門の部長が同時期に定年を迎えましたが、後任が育っていませんでした。そこで私は社長に直訴し、「私が2つの部門を兼任します」と申し出て、取締役として両部門を見る立場になります。部長職になってからの最初の3年間は、給食という仕事の意義について自問自答を繰り返しました。仕事にまったく腹落ちせず、「正直、一度本当にやめようか」と考え、社長に辞意を伝え会議室を飛び出したこともあります。
しかし、給食が世の中に必要とされている存在価値、すなわち「なくてはならない仕事だ」と腹落ちしたことが大きな転機となりました。加えて、新規営業の部長として数字を出すというプレッシャーの中で、チームメンバーの頑張りによって徐々に結果が出始め、部長就任時の年商は約67億円でしたが、短期間で年商を約84億円まで伸ばすことに成功し、それが自信へとつながりました。この経験と、自らが会社を変革しなければならないという強い使命感が、今日の成長につながっているといえます。
その後、常務、専務を経て、40歳で社長に就任。全体を見る立場になったことで、特定部門への注力は難しくなりましたが、それでも前年の年商は92億円を達成し、現在はグループ全体で120億円という大きな目標を掲げ、事業を推進しています。

Q2. 御社の特徴について教えてください
山本社長:弊社を含め給食会社は、戦後の高度成長期における社員食堂の導入という波に乗って成長を遂げてきました。その中で弊社の最大の特徴は、地域にドミナント(支配的・優位に展開)している点にあります。全国展開はせず、愛知県を中心とした東海地域に根ざすことで、独自の強みとビジネスモデルを確立してきました。
私たちの事業の核となるのは、一貫したサプライチェーンです。食材調達から、グループ会社による物流、加工・仕分け、配送、そして現場での調理提供までを自社グループ内で完結させています。また、給食業界では珍しく、愛知県内に2箇所のセントラルキッチンと物流センターといった「箱物」への投資も積極的に行なっており、これが大手他社とは一線を画すビジネスモデルとなっています。
地域密着戦略は、単にエリアを限定しているだけでなく、メニュー開発において圧倒的な差別化を生んでいます。全国展開する大手には難しい、このエリアのお客さんだけに向けた、地元の有名企業や名店とのコラボレーション企画を積極的に展開しており、地元製麺会社の麺を使った焼きそばの企画など、地域色豊かな提案を年間を通じて実施しています。これは、地域に根ざしているからこそ地域に特化した企画を徹底できるという強みです。
弊社のクライアントの約7割は、愛知県の主要産業である製造業の社員食堂です。そのため、東京のような「おしゃれなカフェテリアスタイル」ではなく、工場で働くの方々のニーズを満たすことが重要になります。彼らの高い期待に応えるべく、私たちはイベント食に特に力を入れています。
メニュー開発においては、社長の私が最終チェックと評価を行なうほどの強いこだわりを持っています。過去に大手企業とのコンペに敗退した経験から、イベントやフェアに力を入れることの重要性を痛感し、他社の成功事例を研究しながら独自の企画力を磨いてきました。
実例を挙げると、「カロリーを気にしないでください」と言わんばかりの、手羽先やエビフライ、トンカツなどを豪快に盛り合わせたメニューは、工場で働く方々に特化した狙いがあり、強いインパクトと満足感を提供しています。このような「金のシャチホコに包まれたエビフライ」のような、大手企業が絶対にやらないであろうユニークな企画こそが、私たちの大きな特徴であり、イベント食に対するお客さまの期待感は近年非常に高まっており、他社の食堂にも「勝っている」という自負があります。
また、最近では外国人技能実習生の増加という社会背景に対応し、ベトナム人実習生たちが企画した「ベトナム風にアレンジしたメニューフェア」なども実施しています。これは、地域のクライアントが抱える多様な労働者のニーズに細かく応える、地域密着の給食会社だからこそできることです。
ほかにも、現場では常に新しい企画を生み出すことに情熱を注いでいます。ある大学の学食で学生がプロテインを飲んでいるのを見て、「プロテインスムージーを作って売ったらどうか」と提案したり、冬のおでんコーナーでちょい足し企画を考案するなど、利益率向上と顧客の潜在ニーズを同時に満たす発想を常に巡らせています。
さらに現在、私たちは「給食」という言葉の古さを払拭するため、「モチベ飯(モチベーションになる食事)」という新しい定義を掲げています。社員食堂であれば「午後からの仕事のモチベーション」に、学校であれば「毎日学校に来るモチベーション」になるような、食事を通じて人々の活力を生み出すというプライドを持って仕事に取り組んでいます。当面はエリア内で大手企業に負けない会社を目指し、この地域で最高のサービスを提供することに注力していきます。


Q3. 社食業界の今後について、どのようにお考えですか?
山本社長:私たち給食業界は、長期的に日本国内の人口減少という避けられない課題に直面しています。近年、人口減少に伴い、以前は200人規模だった社員食堂が150人、あるいは100人規模に縮小するケースが増えています。企業側は、こうした小規模な食堂に対し、調理師を派遣して現地調理を行なうフルスペックの委託サービスを提供することがコスト的に難しくなってきています。
このようにクライアントが小規模になったり、「フルスペックの委託は費用的に難しい」という企業の課題を解決する必要があります。このような小規模のニーズは、全国展開の大手企業が参入しにくいニッチな市場だと認識しています。人口減少が進む未来において、私たちはクライアント企業の満足度と、従業員の食のモチベーション向上に貢献する必要があります。
このような変化は、業界全体での淘汰や再編(バイアウト)を加速させるでしょう。しかし、私はこの状況を悲観的に捉えるのではなく、むしろ業界全体をアップデートする好機と捉えています。
大手数社を除くとオーナー企業が多い給食業界では、現在、私のような40代前後の経営者に代替わりを始めています。この我々世代は、給食の仕事の魅力や良さを積極的に発信し、業界イメージを向上させる努力をしなければ、人手不足は解消されず、優秀な人材も集まりません。米価の高騰や人手不足といった足元の課題はありますが、悲観的にならず、前を向いて「魅力的な運営」を次々と実現していくことが重要だと考えています。

-貴重なお話をありがとうございました。さらなるご活躍を期待しております。
(聞き手/社食ドットコム編集部)
| 会社名 | メーキュー株式会社 |
| 所在地 | 愛知県名古屋市守山区下志段味3丁目2302番地 |
| 公式WEBサイト | https://www.me-kyu.com/ |




















