
防衛大学校は、各国の士官学校に相当する、日本で唯一の教育機関として陸上、海上、航空各自衛隊の将来の幹部自衛官を育成する学校で、1952年に前身となる保安大学校が設立されました。その後1954年に防衛庁が設置されると同時に、現在の校名、防衛大学校に改められました。
キャンパスは神奈川県横須賀市に位置しており、65万平方メートルもの広大な敷地に約 2,000人もの学生たちが日々学びと訓練に励んでいます。校内外に教育研究A館/教育研究B館/理工学館/社会科学館/防衛学館/土木・化学実験棟/理工学総合実験棟/人文科学館/総合情報図書館/資料館などの教育施設、覆道射場/花立訓練場/走水海上訓練場などの訓練施設のほか、総合体育館/球技体育館/武道場/陸上競技場/ラグビー場/野球場/アメリカンフットボール場/サッカー場/テニスコートなどの運動施設や、学生会館/学生食堂/学生舎/学生浴場/医務室/展示物などの施設が揃っています。
防衛大学校の学生は特別職の国家公務員であり、被服、寝具、食事などが貸与・支給され、さらに毎月の学生手当と年に2回期末手当等が支給されます。その教育課程は、文部科学省の定める大学設置基準に準拠しており、教養教育・外国語・体育・専門基礎の科目と専門科目(人文・社会科学専攻および理工学専攻)を一般の大学同様に教育しているほか、独自の防衛学(防衛に関する学術分野)の教育も行なっています。また、訓練も各学年ごとに同じ訓練を行う「共通訓練」と、第2学年次から「陸上・海上・航空」に進路が決まった後、それぞれ専門(要員)訓練が行われます。
卒業すれば一般の大学同様学士の学位が取得でき、自衛隊の幹部候補生として陸上要員は陸上自衛官(陸曹長)に、海上要員は海上自衛官(海曹長)に、航空要員は航空自衛官(空曹長)に任命され、各自衛隊の幹部候補生学校に入校することになります。
今回、特別に防衛大学校の学生食堂を訪問させていただく許可をいただきましたので、早速ご紹介しましょう。
ペリーが来航したことで知られる浦賀。その浦賀港から北へ約2キロメートルの高台に位置する防衛大学校の正門。 【本部庁舎】受付を済ませ、まずは正面にある本部庁舎に向かいます。 【本部庁舎】庁舎内のガラスに彫られた校章。中央上部に鳩、中央に桜の花、桜の周りには若葉、というデザイン。鳩は平和の象徴、桜は日本を表し、若葉はそれを守る若人を表していると言われています(諸説あり)。 【本部庁舎】床に設置された、学生自身が作成した学生綱領「廉恥」「真勇」「礼節」。辞書によると、それぞれ「心が清らかで、恥を知る心が強いこと」「本当の勇気」「礼儀と節度」と言う意味です。 【展示】1977年から部隊配置されたF-1支援戦闘機(全長17.9m、全幅7.9m、全高4.5m。最大速度マッハ1.6。 【展示】国産二代目として開発された74式戦車。
全長 9.41m、車体長 6.70m、幅 3.18 m、全高 2.25m、重量 38t。【給水塔】学校のシンボルとなっている給水塔。時計もあるので一見時計台と思われますが、中は実験用などの水が蓄えられています。 【給水塔】高さ50mの給水塔の屋上からの眺望。東京湾や相模湾や房総半島、天気が良い日は富士山も望めます。 【記念講堂】2,300人収容可能な講堂。「帽子投げ」で有名な卒業式の時は前方中央の座席が収納されるなど、可変式となっています(ちなみに投げられた帽子は学校側が回収するそうです)。 【総合情報図書館】書庫も合わせて約59万冊を誇る図書館。軍事関係書約4万冊のほか、各種専門図書、学習用図書、教養図書、貴重図書などを所蔵しています。 【学生舎】学生は入校と同時に学生隊に所属します。学生隊は第1大隊から第4大隊があり、学生舎(寮)もそれぞれ第1学生舎から第4学生舎があります。学生舎の中は、各部屋ごとに8名前後部屋となっています。 【学生舎】1階の入り口には「棒倒し」や重さ10kgの荷物を背負って集団で競う「断郊」、駅伝スタイルの「持続走」、12名の漕手が木製のオールでボートを漕ぐ「カッター」など、4つの大隊が対抗戦を行なった時の賞状や盾、トロフィーなどが飾られています。 【学生舎】学生は6時起床。点呼や朝礼後、午前は8時30分から11時40分まで、午後は13時〜17時まで授業が行なわれます。その後も校友会活動(クラブ活動)、入浴、夕食、自習時間などスケジュールが決められています。 午前の授業が終了。昼食は11時40分(一斉喫食時は12時)からとなるため、学生食堂へ向かう学生たち。取材日は夏用の白い制服を着用していました。 【学生食堂】この日は全学生が一緒に食事をする「一斉喫食」の日。続々と全学生2,000人が学生食堂に集結してきます。 【学生食堂】いくつもある業務用炊飯器もあっという間に空っぽに。ご飯は各自で盛るため中には漫画のように山盛りにする学生も。 【学生食堂】取材日の月曜はカレーの日。
この日のランチメニューは「トマト風味の角切ビーフハヤシ」。【学生食堂】
デザートの「フルーツカクテル」【学生食堂】12時に合わせて、当番学生の号令のもと、2000人が一斉に「いただきます!」 【学生食堂】学生の人気メニューは、チキン山賊焼き、ガーリック風味ポークソテー、もつ鍋風スープ、ゴロゴロビーフカレー、トンカツなど。栄養管理されたメニューを規則正しく食べることができます。 【学生食堂】広さは約3,000平方メートル。最大2,200人が同時に利用できます。 【学生食堂】学生は所属する第1大隊から第4大隊まで隊ごとに別れて着席します。 【学生食堂】学生食堂からの眺望。東京湾が望めます。 【学生食堂】一斉喫食の際、12時10分までは離席はできない決まりとなっています。そのため12時10分になると食べ終えた学生が動き始めます。 【学生食堂】食べ終えたら食器やトレイはセルフで下膳口へ。 【学生の声】「食事という日常生活にありふれた場面ですが、同じ釜のご飯を食べ、同じ卓を囲んでご飯を食べるということは、私たちにとってとても大切です。同期の結束力、先輩後輩との結束力を高めるなど大事な意味があります」 【学生の声】「月曜日は毎週カレーが出るので、お気に入りの野菜たっぷりカレーが出るときはすごくルンルンな気分で食堂に向かいます。そのようなお気に入りのメニューがある日は、食堂が 一日の楽しみになって、その日を頑張ることができます」 【留学生の声】「防大の食堂は美味しいです。また栄養価も高くて、プロテインや一日に必要なエネルギー、カロリーも十分です。私はイスラム教なので、豚肉とかは食べられませんが、食堂の方々がイスラムメニューを用意してくれます。本当に感謝してます」 【調理担当者の声】「将来の幹部自衛官となる学生たちと、校内に居住する自衛官の方々に対し、毎日欠かさず規則的に栄養のバランスのとれた、安心で安全な美味しい食事を提供することを第一の役割として運営しております」 【調理担当者の声】「栄養士により、バランスの良い食事が摂れるように献立が組まれています。最近では名古屋あんかけパスタ、山形芋煮、博多もつ鍋などの特色のある地域メニューを取り入れて提供しています」 【学生会館】1階にはコンビニやATMがあるほか、売店があります。売店では生活用品やスポーツ用品、文房具、各種防衛大学校土産などが販売されています。 【本部庁舎】防衛大学校を舞台にした人気漫画『あおざくら 防衛大学校物語』の作者二階堂ヒカル氏の直筆イラスト&サインも飾られています。 ご案内いただいた、防衛大学校社会連携推進室の廣重さん。
ご案内いただきありがとうございました、校門前には、防衛大学校開校70周年を記念し、展示用マンホールの蓋が飾られていました(画像は防衛大学校の校章のマンホール)。
まとめ
2,000人の「いただきます」が響く! 防衛大学校学生食堂の「一斉喫食」
防衛大学校の学生は、入学と同時に校内にある「学生舎」と呼ばれる寮に全員居住します。現在、第1学生舎から第4学生舎まであり、それぞれの学生舎に約500人ずつが生活しています。学生舎の中では8人程度毎に一部屋が割り当てられており、その生活は、将来幹部自衛官となるべき資質を磨く場でもあります。
学生は朝6時の起床ラッパで一日が始まり、点呼、清掃、朝礼を経て授業や訓練が行われます。授業や訓練の後にも、校友会と呼ばれるクラブ活動として、運動部や文化部など多彩な活動が行われ、その後に自習時間があり、消灯となっています。
このように規則正しい生活の中から先輩や後輩、そして生涯にわたる友人と出逢える機会にもなっています。さらに海外の士官学校からの留学生も学生舎で生活しているため、国際交流の場にもなっています。このように規則正しい生活を通じ、心身を鍛え、将来にもわたる人間関係を育んでいます。
そんな防衛大学校の学生食堂は、学生舎のすぐ近くにあり、その広さは約3,000平方メートル。一度に最大2,200名が収容可能です。通常はすべての本科学生等約2,000名に対し、一日朝昼晩の三食の約6,000食を提供しています。
学生食堂は、学生たちが日課に合わせて決められた時間帯に食事を摂るよう運営されており、平日の朝食は6時35分から7時20分まで、昼食は11時40分から12時40分まで、夕食は18時15分から19時15分までの時間帯に提供されています。
食堂の運営コンセプトとしては、細かく決められた日課への影響を軽減するために、素早く、かつ温かい料理を提供することが重視されています。献立はその日毎に決められた献立を提供し、そのメニュー数は約400種類。また、体力作りに必要なカロリー摂取をするために、栄養士によりしっかり栄養バランスが考慮された食事が規則正しい食生活が送れます。時代のニーズにも応えるよう学生の希望を定期的に調査し、新しい献立に反映させるといった対応もされています。さらに、食堂では入校式典や開校記念祭、卒業式典などの特別行事において、主要来賓を招いた午餐会が開催されることもあります。
防衛大学校での4年間の学生生活は、厳しくも充実したものであり、卒業後には陸海空それぞれの幹部自衛官としての道が開かれています。学生たちはこの4年間を通じて、勉学や訓練、日常生活を通じて成長し、将来の国防に貢献するための資質を養っています。そんな学生たちにとって体づくりの場であるとともに、心身の癒しや学生同士の友好を深める場所にもなっている防衛大学校の学生食堂でした。
神奈川県横須賀市走水1丁目10−20
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